前世ハムスターのハム子は藪をつついて蛇を出す
『ただし物事を望むなら相応の対価が必要になります。それは形あるものかもしれないし、目に見えないなにかかもしれない。
 あなた自身のみならず、彼女にも影響は及ぶでしょう。力のある者ならいざしらず、無力な彼女には存在に揺らぎが生じ、多くの苦難を伴うかもしれない』

「それでも構わない」

(――自分が守ればいいのだから)

 断固たる意志で、そう答える。

『わかりました。……全ては摂理のもとに。紡がれる生命の螺旋に祝福があらんことを』

 すると、周囲の霧が強く発光するように輝いた。
 思念体が動いたのを感じる。

 光が、境界の世界を埋め尽くす――。

 目がくらんでなにも見えなくなる前に、蛇は愛しき存在へと視線を向けた。

 ――彼女の薄い瞼が開き、白く濁りかけた瞳がのぞいた。

『ひとりにして、ごめんね……』

「……ひとりにはならない。ずっと一緒だ」

『またいつか、会えるよ……』

「ああ。すぐに会える」

「『いつか、必ず……』」

 最後にそう呟いたのはどちらの声だったか。

「……っ」
 愛するものに触れようと身を伸ばした。
 だがその前に互いの姿は光に埋もれ、意識も、記憶すらも、奔流の渦中へと押し流されてしまう。

 そうして、彼女との別れが訪れた。

 時間はかかるかもしれない。けれど、必ず巡り合う。見つけ出す。

 そしてまた、一緒にいよう――。
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