没落寸前の伯爵令嬢ですが王太子を助けてから雲行きがあやしくなってきました
プロローグ
春のまだ冷たい風が冷たく頬を襲う。
耐えられないほどではない寒さが心地よい。

いい加減に自分を演じることに疲れてしまっている彼にはこれくらいの寒さがちょうどよかった。

「ふぅ…疲れた」

思わず声が漏れ、首元が息苦しく感じ、クラバットを少し緩めたその時だ。

「ダメですっ!」

後ろから突然ガバっと誰かに飛びつかれ、あまりのことに不意をつかれた彼は、日ごろの反射神経はどこに消えていたのか、その場にバタリと倒れこんだ。

くそっ。俺としたことが…
油断していた。

だが、もともと運動神経のよい彼は倒れる直前に体制を微妙に建て直し、倒れたときにはその人間を下に組み敷くことに成功した。
同時に他に人の気配がないことを周りに気をめぐらし確認する。

「動くな!」

凄みのある声で相手を威嚇し、両手首を地面に両手でがっしりと抑え込んだ時点でその人間を見て、混乱した。

女?
なぜ女が?
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