ヒスイのさがしもの

めぐりあい




 黄昏時(たそがれどき)

 放課後の廊下は、窓から射し込む西日で(だいだい)に染まっている。


 誰そ彼時(たそがれどき)

 目の前の二人は誰だったっけ。たしか、ありふれた苗字の同級生。


「うん、いいよ。大丈夫!」


 私が言うと、二人は申し訳なさそうに眉を下げた。


「ほんとー? いつも替わってもらってごめんね!」

「まぁ、阿澄(あすみ)さん、うちらより掃除上手だしね! 助かるわー」


 わざとらしい言葉と表情からは、罪悪感なんてこれっぽっちも見当たらない。

 私に掃除当番を押しつけた二人は、遊びの予定を楽しそうに話しながら廊下の向こうへ消えていった。


 ほうきを手に取って、ため息をつく。


 掃除当番を替わったのは、何度目だろう。迷う間もなく、いいよ、なんて言ったけれど、本当は嫌だった。

 掃除は嫌いじゃない。だからといって、当番制なのにいつも押しつけられるのは嫌だ。


 でも、本当はーー嫌と言えない自分が一番嫌。


 こんな気持ちになったときは、ヘアピンに触れる。

 前髪を留めたヘアピンは、(しずく)のモチーフに淡い緑の石がついている。これが私のお守りだ。


 私は、あの子たちの掃除当番を替わってあげた。あの子たちに感謝してもらえた。あの子たちに、いい子って思われたはずだ。きっと。

 だから、大丈夫。嫌なことなんて何もなかったんだ。


 気持ちを切り替えて、手を動かす。どうせ、早く家に帰る理由もない。

 ゴミを()いて、一ヵ所に集める。小さなほこりの山ができあがった頃、誰かがそれを踏んだ。


「え、あの、そこ、ゴミがーー」


 ゴミを踏んづけたのは真新しいスニーカー。この中学の生徒は指定の上靴だ。じゃあ先生かなと、目線を上げる。


「は? ゴミ?」


 先生じゃ、なかった。


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