ヒスイのさがしもの







 神様の言うとおり、穴の奥は光がさしていた。薄明(うすあ)かりの中で、神様の輪郭(りんかく)が明らかになっていく。

 私を抱えている腕は、大きな葉のよう。そっと顔を上げると、西洋絵画の女神様のような優しい眼差しが私を見ていた。

 街で見た小さな神様とは違う、人間によく見た造形。それでも体を形成しているいくつもの葉が、私と同じ生き物などではないことを知らしめる。


「この辺りは、どうかしら」


 神様の揺れる髪のようなツタに見とれている間に、目的地へ着いたらしい。そっと優しく、地面へと降ろされた。

 見上げた先には植物の隙間から光がさし、穏やかな風が吹き抜けていく。

 洞穴(ほらあな)のようになっているのだろうか。それなら先へ進めば外へ出られそうだ。


「ありがとうございます! 私、外に出たくてーー」

「そう慌てないで。ねぇ人間さん、あなた、嫌いな食べ物はある?」


 神様からの唐突(とうとつ)な問いに戸惑(とまど)いながらも、答える。


「嫌いなものーーは、特にないかなぁ……。()いて言えば、脂っこいものは少し苦手です」

「あらそう。お待ちなさいな」


 神様は、洞穴を形成する木々の隙間へと向かう。よく見ると、切り株や岩が家具のように並んでいることに気づいた。もしかしたらここは神様にとっての家なのかもしれない。


「さあ、好きなだけ召し上がって」


 そう言うと神様は、平たい岩の上に次々と料理を並べる。詳しくないけれどまるでフランス料理のようだ。つまりすごくおしゃれ。

 湯気がたつスープに、様々な緑が映えるサラダ。野菜の混ざった玉子料理は、名前こそ知らないがとてもおいしそうだ。

 ……でも。得体が知れないのは確かだ。


「あの、私……」

「どうなさったの? ……食べられない?」


 神様はかなしそうな、さびしそうな、切ない瞳で私を見る。


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