王子がお家に住み着いた!

3.泣きそうなのは貴方だけ、ではない

さすがに5分では家に着かない。
でも、一番に祝うと約束した以上とにかく急いで帰らなくては!

あわあわと起き上がろうとして、ふと男性と目が合う。
私は慌てて再度ベッドに潜り込んだ。

「····あの、ドレスを着たいので部屋から出ていただくか、せめて後ろを向いていただけますか?」

コルセットまで外されているのだから今更かもしれないが、意識がない時に見られるのと意識がある時に見られるのでは恥ずかしさが全然違う。
そんな私の気持ちが伝わったのか、彼は黒髪をおもむろにかきあげてあはは、と笑った。


「やだなぁ、ドレスとかまだ着せませんよ?」
「·····は?」

ギョッとして慌てて相手の顔色を伺うが残念ながら仮面からは表情が何もわからず、それがまた更に焦らせる。

「何を仰って····」
「ですので、ドレスはまだ着させません。着てもすぐ脱がされるんですから着るだけ無駄ですよね?」

くすくす笑いながらゆっくり近付かれ背中を嫌な汗が伝った。

ーーー···これ、ヤバいのでは?

何か言わなくては、と思ったが頭が全然回らない。
しかし私が固まっている間にどんどん彼は近付いて来て····


「······い、嫌ぁっ!!助けてルイス王子いぃっ!!!」


思わず叫んでベッドから転がるように落下した。


「ーーーーッッ!」

来るであろう衝撃に構え、ぎゅっと目を瞑るが来たのは硬い床にぶつかった衝撃ではなく、腕を引っ張られた感触とぼすんとした柔らかい衝撃だった。

ゆっくり片目を開けると私はベッドに座っていて、私の代わりに床に転がる男性の姿。
おそらく落ちる私の腕を引いて助けた反動で顔面から落ちたのだろう。


「だ、大丈夫ですか···?」
今すぐ逃げなくては、とわかっていながら気付けば思わずそう声をかけていて。

「······格好悪すぎて泣きそうだ····」
「それは····その、すみません」

その時0時の鐘が部屋に響いた。
ハッとして、そしてため息を吐く。

「間に合わなかった····」

いや、間に合わないどころか今はまずこの状況をどうするかなのだが。

「···間に合うと思うけど」
「は?」

ベッドの横でなんとか起き上がったその男性
は、ゆっくり仮面に手をかけて。

「·······あ、え?」

仮面が外れるのと同時に艶やかだった漆黒の髪が月明かりに照らされ銀色に変わっていく。
ルビーのような瞳が射貫くように私を見つめてきて。
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