可哀想な猫獣人は騎士様に貰われる
知らないこと
「──近衛騎士殿!」

 扉を開けるや否や、弾かれたようにソファから立ち上がったのは革命軍の長レジーだった。

 いや、今はアゼリア王国の新体制の要となり動いているため、次期国王とでも呼ぶべきか。どちらでもよいが、オーランドはこれだけ訂正しておこうとため息をつく。

「俺はもう近衛騎士ではないぞ」
「あ……申し訳ない、伯爵……」
「用件は」

 レジーが遅かれ早かれここへ来ることは予想がついていた。大方、オーランドの兄であり主人──ブルーム国王ヴァレリアンに直接話す勇気がないから、人目を盗んで訪れたのだろう。

 早めに切り上げたいところだが、それはこの男の潔さ次第。用件を促せば、レジーは思った通りの言葉を発した。

「ジル殿を僕に返していただきたい。初めはそういうお話だったではありませんか」

 オーランドはクッと喉を鳴らして笑ってしまった。不快感を露わにするレジーにも構わず、彼はソファに深く背を預ける。

「返すなどと。いつから彼女はお前の所有物だったんだ?」
「所有物っ……そんなつもりで言ったのでは」
「俺は五年ほどクロエ王女の元で近衛騎士の真似事をしたわけだが、お前と彼女には何ら接点がなかったと記憶しているぞ」

 現に、ジルの口からレジーの名が出たことはない。フォーサイスに移ってから暫く様子を見ていたが、彼女はアゼリア王国でのことを一言も口にしなかった。

 メイドに尋ねたところ、夜中に魘されて目を覚ますことがあるようだが……それは言うまでもなく、クロエ王女から受けた暴力や嘲笑に起因するものだろう。

 誰かに、できることなら自分にそれを打ち明けてくれれば話を聞くなり何なりするのだが、ジルの傷を抉ることになりかねないため積極的に聞き出すこともできず。

 今は時間が彼女を癒やしてくれるのを待つしかないかと、オーランドが客人の存在を忘れてあっという間に思考を余所に飛ばしていたときだった。

「ぼ、僕はジル殿と想いを通わせていたんです。それを引き裂くなんて!」

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