身代わり婚約者との愛され結婚

17.何度懐中時計を見たとしても

“月日が経つのはあっという間ね”

 ハンナが毎日水をかえ丁寧にしてくれているお陰で、元々日持ちする品種だったらしいスターチスはまだキレイな花をつけていた。

「でも、さすがにそろそろ終わっちゃうわね」
 
 プレゼントして貰った時よりだいぶ花の数を減らしてしまったスターチス。
 そんなスターチスの花を指先でつつきながら、私室で一人そう呟いた。


「花言葉は、変わらぬ心……か」

 心は変わらなくても、周りは変わるわ。
 結婚し、公爵になり、子を成す。

 私にはまだまだやらなくてはならないことがあり、そしてやりたいことがある。

 恋心だけでは生きていけない。


“黄色のスターチスの花言葉は、愛の喜び……”

 花の横に置いておいた図鑑をパラリと捲り、スターチスの色別の花言葉を指でそっとなぞった。

「どうするのがいいのかしら……」


 長いようで短かった時間。
 花の終わりと共に楽しかったその時間の終わりが近付いていることを示しているようで苦しかった。


 沈んだ心を誤魔化すように頭を軽く振る。
 だって今日は月に一度の茶会の日だから。
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