身代わり婚約者との愛され結婚
 慌てて立ち上がったせいで乱れた髪を必死で撫で付けていると、完全にいつも通りのクールなレヴィンが温室に入ってきた。

 お辞儀をする様も、口に出す言葉もあまりにもいつも通り過ぎて拍子抜けしてしまう。


“気にしてたの、私だけだったのね”

 なんだかその事実に少しだけ気分が下がった、そんな時。


「……ふふ、慌てられたんですか? 珍しいですね」

 必死で撫で付けていたところとは反対の耳の上をレヴィンの手のひらがそっと撫でる。

 ふっと優しげに目元をレヴィンが細めたからか、その手つきがとても優しかったからなのか。

“乱れた髪を直してくれただけ”

 それだけだとわかっているのに、なんだかとても想われている錯覚に陥り、下がった気分が急浮上した。


「こちらはアルベルティーナ嬢に」
「え?」
「え?」

 さっと今日も目の前に出された花束……だが、その花束よりも気になったことがひとつ。


「アルベルティーナ嬢、ですか……?」 

 私の質問に不思議そうな顔をしたレヴィンは、すぐに思い当たったのかわざとらしくこほんと咳払いをした。
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