身代わり婚約者との愛され結婚

10.何一つ失うことなど出来ない責任を背負って

 雲ひとつない晴れ渡る青空が爽やかで、けれど少し風があるから暑すぎない。

 わくわくと気持ちが上がるのは、きっとこの素晴らしい天気と。

「いよいよ本日ですね、オペラ」
「そうね」

 きっと、今日が私の人生はじめての『本人との』デートだからだ。
 もちろん婚約者のいる身で他の男性とデート、というといけないことをしているように思えるが……

“当の婚約者本人がいつも送り込んでくる身代わりの婚約者だし”

 何より一度も会いに来ない婚約者本人は繁華街に入り浸り。
 他の令嬢とデートをしているどころか何人もをとっかえひっかえしているのだ。

 ならば私だって、少々は構わないはず。……なんて自分を納得させる。

 どうせ私たちの間に愛も恋もない、政略だけの結婚なのだから。
 


“任せて、なんてハンナは言っていたけれど”

 流石にこれは着飾りすぎなのでは?と思うほどふんだんに生花が髪に差し込まれていた。


「アザレアとカスミソウです。クラウリー伯爵領は花栽培が盛んですから、喜ばれるのでは」
「そう、かしら……?」
「えぇ、もちろんです」
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