アンハッピー・ウエディング〜前編〜
桜咲く頃の章1
結婚。

その言葉を聞くと、誰しも素晴らしく幸福なものをイメージするだろう。

たくさんの愛と幸福に溢れ、祝福され、自分の選んだパートナーと新たな人生に踏み出す、大きな一歩。

それはとても幸せなもので、誰にとっても憧れのイベント。

…だが、俺に言わせれば、そんなものは幻想だ。

所詮幸せな結婚なんてものは、幸せな人間がすることだ。

俺にとって結婚とは、愛に溢れてもいなければ、誰からも祝福されてさえいない。

それは果たすべき義務であり、役目だった。

俺が「結婚」することが決まった日、そのことを俺に告げた母は、泣きながら俺に謝った。

「ごめんなさい、悠理(ゆうり)。ごめんなさい…。本当に、ごめんなさい」

「…」

取り乱し、必死になって謝る母を見て、俺は思わず苦笑してしまった。

母はこんなに狼狽えているのに、当人である俺の方が落ち着いているとは。

こんな日がいつか来るだろうって、ある程度予測していたから。

自分でも驚くほど、意外と冷静だった。

「母さんが悪い訳じゃないだろ?」

「でも…。でも、私に何の力もないばっかりに、あなたにこんな役目を…」

そう、それは役目だった。

果たすべき義務だった。

俺の意志なんて関係ない。この家に生まれてきた以上、避けて通れない運命だった。

「悠理にはこんな思い…絶対にさせたくなかったのに…」

我が子の運命を、他人の手によって勝手に決められてしまった、自らの無力に嘆く母。

そんな母を、これ以上悲しませたくなかった。

だから、俺はこう言った。

「俺は大丈夫だよ、母さん」

本当に大丈夫だと思っていた訳じゃない。

どう考えても、俺の前途は多難だった。

ろくな未来が待っていないことは分かっていた。

だけど、それは…今に始まったことじゃない。

いつかこうなるだろうと思っていた。だから、心の準備はしていた。

いつか自分は…自分の意志に関係なく、見ず知らずの他人と結婚させられることになるのだと。

それが今、ようやく現実になったというだけの話だ。
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