アンハッピー・ウエディング〜前編〜
そして、迎えた翌日。

寿々花さんの、17歳の誕生日である。

その日の朝。




「悠理君、おはよー」

いつも通り、寿々花さんは眠い目を擦りながらダイニングキッチンに降りてきた。

「おはよう、寿々花さん」

「聞いて聞いて。昨日見た夢の中にねー」

今日も早速、夢の話を始めた。

本当バリエーション豊かな夢を見てるよな、寿々花さん。

「夢の中で、拾ったゲームのキャラクター達に会う夢を見たの」

…え、えぇと?

「夢の中で…夢を見たのか?」

「うん。凄いでしょ?」

どういう状況なんだ?それ。

夢の中で夢って、見れんの?

「面白い人がいっぱいいて、面白かったなー。私も、道端に落っこちてるゲームがあったら拾おう」

交番に届けなさい。 

落ちてるものを、無闇に拾ってくるんじゃない。

…それにしても、また面白い夢だな。

俺が昨日見た夢の内容、教えてやろうか?

中間試験を受けてる夢でさ、目の前に試験用紙があるんだけど。

それがまた見たこともない科目の試験で、「やべぇ、一問も分からない」って絶望してる夢だった。

夢で良かったよ。

現実でああならないよう、試験勉強はしっかりしておくべきだと改めて思い知った。

…って、そんなことは今はどうでも良いんだよ。

いつもと同じ、普通の朝のように過ごしてるけど。

今日は、特別な一日なんだから。

「寿々花さん」

「女の子のキャラクター、可愛かったなー。主人公を縛って監禁しようとしてた」

ヤバい奴じゃね?それ。可愛いか?

って、いつまで夢の話してんだ。

「夢の話じゃなくて、もっと大事なことがあるだろ」

「…大事なこと?」

「誕生日おめでとう」

「…」

ずっと、誕生日をお祝いして欲しかったのだと言いながら。

いざ本当に祝福の言葉をもらうと、寿々花さんは、まるで実感を持てていないようで。

ぽやんとして、不思議そうな顔で首を傾げていた。

…え?今日だよな?

今日って言ってたよな?誕生日。

まさか、間違えた?

「…今日って誕生日じゃなかったっけ?」

もし間違えてたら、一生の恥なんだけど。

しかし。

「…?…?…うん、誕生日だね」

カレンダーを二度見して、寿々花さんが頷いた。

あんた、自覚してなかったのか?

あれだけ、誕生日祝って欲しいとか言ってたのに?

「良かった。じゃあ、おめでとう」

「…」

「今日帰ってきたら、ケーキとご馳走でお祝いしような。誕生日プレゼントは…そのとき渡しても良いか?」

待ち切れないなら、今渡すけど。

しかし、寿々花さんはと言うと。

「…」

無言で、ぽやんとして俺の顔を眺めていた。
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