アンハッピー・ウエディング〜前編〜
雨間に光差す頃の章3
その日、我が家のポストに一通の手紙が入っていた。

何気なく手に取って、度肝を抜かれた。

差出人の名前と住所が、日本語じゃなかった。

英語…でもない。何語だこれ?

外国からの手紙…。国際郵便って奴か?

初めて受け取ったよ。

如何せん俺には、文通するような外国の知り合いはいない。

誤配…じゃないよな?

かろうじて、宛名がローマ字で書いてあって助かった。

どうやら、寿々花さん宛ての手紙のようだ。

凄いな。国際郵便を送ってくる相手がいるのか。

さすが、こういうところはお嬢様…と思ったが。

別にお嬢様は関係ないか。

しかし、誰からの手紙なんだろうな?

英語でさえ、教科書がないと読めないってのに。

英語でもない外国語じゃあ、俺が読めるはずがないんだが…。

まぁ、良いか。

俺宛ての手紙じゃなくて、寿々花さんに届いた手紙なのだから。

「ただいま、寿々花さん」

「あ、悠理君だ。お帰りー」

寿々花さんは家の中ではなく、ベランダに出て座っていた。

何をしているのかと思ったら、昨日俺がプレゼントしたばかりのシャボン玉。

早速、あれで遊んでいる。

百円の安い奴な。

マジでシャボン玉で遊ぶのか…。高校2年生が…。

ストローの端に泡液をつけて、ふーっと吹くと。

ふわふわふわ〜、っと小さな泡が宙を舞った。

「悠理君、見て見て。シャボン玉だ」

「…うん、シャボン玉だな」

何処からどう見ても、シャボン玉だ。

…やっぱり詰まらなくね?所詮泡と散る定め。

それなのに、寿々花さんは。

「綺麗だね、シャボン玉。見て、あの子大きい」

と言って、ひときわ大きなシャボン玉を指差した。

「あ、うん…」

「待て待て〜」

ふわふわ飛んでいくシャボン玉を、無邪気に追い掛け。

指でそっと触っては、パチンと割れるシャボン玉を見て楽しんでいる。

…童心に帰ってんなぁ…。

「面白いね、シャボン玉。毎日やりたいね」

「あ、そう…」

あんたが楽しんでるようで何よりだよ。

まさか学校の連中も、無月院家のお嬢様が、百円のシャボン玉で喜んでるとは思ってないだろうな。

「悠理君も一緒にやろうよ」

「え?何で俺が」

「一人でやってもこんなに楽しいんだもん。二人でやったら、きっともっと楽しいよ」

何?その謎理論。

俺は高校生にもなって、シャボン玉で遊ぶ趣味はないんだけど?

…いや、そんなことより。

「思い出した。それより、寿々花さん。さっきポストに…」

「こっちもやってみようよ。ほら、泡の出る魔法のステッキ」

「話を聞けって」

俺がプレゼントした、もう一つのシャボン玉の玩具。

電動のシャボン玉ステッキを取り出して、スイッチを入れた。
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