アンハッピー・ウエディング〜前編〜
…一時間後。

「…大丈夫か?」

「…うー…」

寿々花さんはソファに横になって、誕生日に俺がプレゼントしたブランケットにくるまっていた。

まだ顔色悪いな…。多少はマシになったけど。

…まさか、あんな悲劇に襲われるとは思わなかった。

ただの食わず嫌い…だと思ってたけど、そんなに簡単な問題ではなかったようだ。

これは、俺の認識が甘かった。

「…そんなに不味かったか?」

「…お腹が捩れるかと思った…」

「そ、そうか…」

無言で淡々と食べてたから、意外とイケるのかと思ったよ。

そうじゃなかったらしい。

「あのなぁ…。吐きたくなるほど受け付けないんだったら、無理して食べなきゃ良かったのに」

「だって、頑張って食べたら悠理君が褒めてくれるって言うから…。褒めて欲しくて」

「…」

褒めて欲しくて、吐きそうなのを必死に堪えて飲み下したんだな。

…俺が悪かったよ。

確かに頑張って食べたのは偉いけど。

でも、気持ち悪くて吐きそうなのを我慢してまで食べろ、なんて鬼みたいなことは言わないからな。俺は。

「大丈夫か?ちょっとは落ち着いたか」

「…まだ気持ち悪い…」

「そ、そうか…」

予想以上に、ダメージは深かったようだな。

さっさと好き嫌いを克服させたいが為に、無理をさせ過ぎたらしい。

うーん…。申し訳ない。

「やっぱり駄目なのかなぁ…」

ほら。寿々花さんが落ち込んじゃってる。

自信をなくしちゃってるよ。

「調理実習本番の日も、こんな風におえってなっちゃったらどうしよう…」

それは大惨事だな。

「大丈夫だって。まだ時間あるだろ。少しずつ克服していこう」

「出来るかな…?」

「何とかなるって。一緒に頑張ろう。な?」

自信を失った寿々花さんを、俺は必死に宥め、慰め、励ましたのだった。

こうして、寿々花さんの好き嫌い克服プロジェクトの第一歩は、見事に大失敗の結果に終わった。

うーん。無念。

世の中、そんなに上手く行かないってことだな。
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