アンハッピー・ウエディング〜前編〜
外国の、お洒落で高価な紅茶とクッキーのセットをもらって。

そのお返しに、一箱800円弱のワニクッキーを渡すなんて。

惨めだ。惨め過ぎる。

今更だけど、もっと気の利いたお土産はなかったのかよ。俺。

これがおすすめだって言うから、何も考えずワニクッキー買ってきてしまった。

…と、言っても。

あの『爬虫類の館』の小さな売店コーナーで、いくら気の利いたお土産を探そうとしても…無理があるってものだ。

他の商品と言えば、例のリアルな爬虫類キーホルダーとか。

ヘビやワニのぬいぐるみばっかりだったんだから。

あれらに比べたら、まだワニクッキーの方がマシって言うか…。

幸い、小花衣先輩は俺の差し出した紙袋の中を覗くようなことはしなかった。

良かった。そのまま持って帰って、家に帰ってから開けてくれ。

目の前で開けられたら、凄い気まずい空気になりそうだから。

しかし。

「ところで、悠理さんの学年は、遠足はどちらに?」

お土産の話と同じくらい、気まずい質問。

「一年生だから、果物狩りかしら?」

それは女子部一年生の話な。

男子部は全く関係ない。

「えーっと…。…い、意外と近場だったんですが…」

「近場?何処かしら」

まさか、歩いていける距離でしたとも言えず。

自分達が豪華客船で日帰りクルーズを楽しんでいた、丁度その頃。

野郎共が一列に並んで、汗だくになって『爬虫類の館』に歩いていった…なんて。

とても信じないだろうなぁ。小花衣先輩…。

でも、これが事実なんだよ。

「…えっと、その、ど、動物園です」

「動物園?まぁ、懐かしい。私も小さい頃、お母様に連れて行ってもらったことがあるわ」

動物園って言うか…爬虫類限定なんだけど…。

「パンタや白くまが可愛くて。そうね、高校生になってから動物園に行ったら、幼い頃にはなかった、新しい発見がありそうで楽しそうだわ」

なんて前向きな解釈なんだ。

ここで、「けっ。動物園?ガキかよぷぷぷw」って馬鹿にしないのが、小花衣先輩のお嬢様たる所以だよな。

人が良いにも程がある。

確かに、新しい発見は色々あったよ。

ヘビやワニとの戦い方を教えてもらったからな。

「今度の夏休みに、また海外旅行に行く予定なの。お土産を買ってくるわね」

「え、えっと…。お気遣いなく…」

また海外旅行に行くのか。

そういや、夏休みは海外旅行に行く生徒が多いって言ってたもんな。寿々花さん。

あまりにもまともなお土産ばかりもらうせいで、ろくにお返しが出来ないのが歯痒いばかりである。
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