アンハッピー・ウエディング〜前編〜
…と、思ったが。

雛堂の方から、べらべらと喋り出した。

「油断してるとあっという間に終わっちまうからな!充実した夏休みを送る為に、今から計画を立てておかないと!」

だってさ。

雛堂にしては、珍しくまともなこと言ってんな。

期末試験も赤点スレスレだったみたいだしな。

「夏期講習でも受けるのか?それとも全国模試?」

夏休みにしっかり勉強して、二学期に備えようという殊勝な心掛けかと思ったが。

「へ?何言ってんの星見の兄さん」

「は?」

何できょとんとしてんの?

夏休みの計画って言うから、てっきり勉強の計画だと…。

「悠理さん、多分あなたが思ってるのとは違いますよ。この人間の俗物は」 

乙無が俺の考えを読んだように言って、雛堂をジト目で睨んでいた。

「…どういうことだよ?」

「まぁ、聞いててみなさい」

…何を?と思ったら。

「一生に一度の、高一の夏!後悔しないように過ごさないとな。まずは海だ。女子を片っ端からナンパして、水着姿を拝む!」

「…」

「そして花火大会だな。花火をバックに、浴衣姿の女子…。堪んないシチュだよな!」

「…」

…あー、うん。成程ね。 

ごめん、乙無。あんたの言う通りだったよ。

勉強の計画かな、と一瞬でも思った俺が馬鹿だった。

「…馬鹿が移りそうだから、あっちに行こうぜ。乙無」

「そうですね。何なら、今日限りで友達やめましょうか」

「賛成だな」

俺達の友情も今日までだったということで。さよなら。

あんたは好きなように、ナンパしてフラレてビンタでもされててくれ。

「ちょ、待てって!君達辛辣!冗談だって。冗談だってば!」

雛堂が慌てて、立ち去ろうとする俺と乙無の前に出て止めた。

「何が冗談だよ。本気だっただろうが」

「そりゃまぁ、な…7割くらいは本気だったけど」

ほぼ本気なんじゃないか。やっぱり。

「だってよ、一生に一度しかない高一の夏だぜ?青春だぜ?エンジョイしないと勿体ないって思わないか!?」

「…別に…」

いつも通り過ごせば良いんじゃねぇの?

「星見の兄さん、夏休みの計画立ててねぇの?どっか行くとか…」

「え?いや、特には…。いつも通り、家で家事したり宿題して過ごそうと思ってるけど」

「つまんねぇ夏だなー」

イラッ。

余計なお世話だ。良いだろ、俺がどんな風に夏休みを過ごそうが。

何か悪いかよ。

「乙無の兄さんは?なんか予定は」

「ありますよ。僕はあなた方と違って忙しいんです」

お?

乙無は予定があるのか。小花衣先輩みたいに、海外旅行とか…。

しかし。

「邪神の眷属として、罪の器を満たすという使命がありますから。世界各地を回って、罪を集め…」

「あーはいはい。そういうのは良いから」

誰が中二病を発動しろと言った?

要するに、乙無も暇だってことだな。

…それに。

「雛堂。あんたさっきから、海だの花火大会だの、夢みたいなこと言ってるけど」

「へ?」

「ナンパなんか、成功すると思ってんのか?もし成功しなかったら、海辺や花火大会の会場で、本物のリア充カップルを横目に、一人で涙を呑む羽目になるってことを理解してるのか」

「ぐはぁっ!い、いてぇ!星見の兄さんの舌鋒が突き刺さる!」

現実を見ろってことだな。現実を。
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