アンハッピー・ウエディング〜前編〜
連日、真夏の暑さで茹だりそうな毎日が続いていたが。

この日は特に、朝から気温が高く。

エアコンをつけてるのに、動いていると汗が吹き出してヤバい。

更に、俺は現在、背中に冷や汗をかいていた。

「…」

目の前のブツを見て、俺はしばしキッチンに立ち尽くしていた。

ブツ、って言うと怪しげなものに聴こえるかもしれないが。

昼飯だよ。さっき作った昼飯。

自分の作った料理が、あまりにもヤバい出来でさ。

さっきから、背中に冷や汗が流れてる。

…やっぱり、素直にそうめんにすれば良かった。

直前まで悩んでたんだよ。お昼はそうめんにするか、それとも目の前の「コレ」にするか。

でも、いつまでも食べなかったら、いつまでも戸棚の中に放置されたままになると思って。

意外と戸棚の場所を取ってるんだよ。コレ。

あるいは、あまりの暑さに思考停止してしまっていたのかもしれない。

で、恐る恐る封を開けてみたら。

火を入れる前から、何とも言えない謎の臭気がしてて。

やっぱり食べるのやめようかとも思ったけど、怖いもの見たさと言うか、食べ物を捨てるのは勿体ないし。

えぇい、もうどうにでもなれ…と、作ってみた結果が「コレ」である。

…どうしよう。

キッチンに立ち尽くしていると、そこに。

「何だか凄い匂いがするー」

異臭を嗅ぎつけた寿々花お嬢さんが、キッチンに降りてきた。

二階にまで異臭が漂ってるのか…。近所に漏れてないと良いのだが。

まさか、「こんなもの」が原因とは言えず。

…いや、「こんなもの」って言ったら失礼かもしれないけどさ。

「悠理君、それなぁに?」

寿々花さんは、匂いの発生源であるどんぶりを指差した。

…良い質問だ。これはな。

「あんたが『ブルーローズ・ドリーム号』で買ってきたお土産のインスタントラーメンだよ」

「おぉ、アレかー」

納得納得、みたいな顔してんじゃねぇよ。

そう、アレだよ。

何種類も買ってきたけど、その中で一番怪しい奴。

何味か分からないけど、パッケージが可愛いからって言って買ってきた。

結局、これ何味なんだろう?

パッケージに書いてある文字は、日本語でも英語でもないし。そもそもアルファベットじゃなかった。

何て書いてあるのか、俺にはさっぱり分からず。

見様見真似で作ってみたけど、匂いを嗅いでも、コレが何味なのか全く分からない。

なんかスープがドロッとしてる気がするんだけど、本当にこれ、食べても大丈夫なのか…?

…不安が募る。

やっぱり今からでも、そうめん作ろうかな…。

…と、思ったが。

「よし、食べてみよっか。悠理君」

相変わらず、怖いもの知らずの寿々花お嬢さん。

これを見て、「食べてみよっか」と言えるあんたの度胸よ。

心臓に毫毛生えてるんじゃねーの。マジで。
< 447 / 505 >

この作品をシェア

pagetop