14年分の想いで、極上一途な御曹司は私を囲い愛でる
 まったく知らなかった。情報通の愛華さんでさえ、そんな話をしていないので、おそらく総務課では一部の人しか知らないのかもしれない。

「とにかく今回の件は専務取締役から被害者の君の名前を出さないようにかん口令が出ているから、水面下で調査するはずだ。秋葉さんは周りを気にしないで仕事をしてほしい。また追って連絡が入ると思う」

「はい。わかりました」

 課長が頷いて自席へ戻る。

 そこへ愛華さんが出勤して、パタパタとせわしなく着席したばかりの私の横に立った。

「紬希さんっ、忽那専務とお知り合いだったんですか?」

 彼女の質問は大和さんが私の居所を尋ねたと聞いたときから予測していた。

「中学の頃の知り合いだったんだけど、私も彼が専務取締役だったことにびっくりで。大人の彼に気づかなかったの」

「あ! ロビーで会ったときですか?」

「そ、そう。でも私は変わってなかったみたい。それで……」

 あながち間違った説明ではないけれど、西島部長の件があるので詳しくは話さない方がいいと決めていた。

「中学の時の紬希さんもかわいかったんですね」

 愛華さんは納得してくれたみたいだ。婚約したことを話すハードルが高くなってしまったが。

 彼女は大和さんに給湯室にいると教えてすぐ退勤したみたいで、西島部長の件は知らないようだ。
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