ブランカ/Blanca―30代女性警察官の日常コメディ

第20話 キュウリとタイヤとメキシコ料理と

 九月四日 午後七時四十五分

 私は今、不機嫌だ。

 今日は望月さんのバーに来ている。松永さんはいない。

 目の前にいる岡島は、任務で電話に出れなかった二週間分の話をしている。終わらない。終わる気配がしない。だが、聞かなくてはならない話題に変わったから私は頑張って聞いたのだが、不機嫌になった。

 相澤に彼女が出来た事は松永さんから聞いたが、岡島は相澤が幸せそうにしていると言う。岡島も行った合コンで出会ったそうで、ご多分に漏れず小さくて可愛い女の子だ、と。

「昔の女なんて忘れて、さっさと結婚しちゃえば良いのにね、奈緒ちゃん」

 五年前、私はその彼女と相澤がデートしている所を松永さんと見た事がある。それが原因で松永さんに私の恋心がバレたのだが、相澤はその彼女が浮気して別れた後、抜け殻になっていた。仕事にも影響が出て松永さんに叱られているのを見た事がある。

 三年程付き合っていた二人は結婚するのだろうと私は思っていた。だが三年前に別れた相澤は、年一ペースで彼女が出来てすぐ別れてを繰り返している。
 前の彼女が忘れられないのだと、松永さんは言っていた。

 小さくて可愛い女の子――。
 デカくて可愛げの無い女の私は、叶わぬ恋をして十四年経った。
< 120 / 257 >

この作品をシェア

pagetop