ブランカ/Blanca―30代女性警察官の日常コメディ
 私の自宅最寄り駅は、葉梨の実家の最寄り駅でもある。だが双方の家は駅を挟んで反対側だ。「駅が同じでびっくりしました」と言った葉梨だったが、初めての葉梨に会った日に覚えた違和感が、今、なんとなく分かった気がした。

 ――葉梨は良いところの坊っちゃんだ。

 葉梨の見た目は熊で闇金の取り立てみたいな格好がよく似合う体格の良い熊だが、言葉遣いや食事のマナー、脱いだコートや靴の扱いなど、細かい部分に躾が行き届いていると思った。

 これは松永さんもそうだ。五年前、茶髪パーマで日サロで灼いた筋肉質な肌が映える白いタンクトップを着て、下は赤いジャージを腰で履いてアクセサリーもジャラジャラ付けた松永さんが飲み会に来た時、私は心の中で「ギャングだ、ギャングギャング」と思っていたのだが、座敷に入る時に松永さんが、ギャングが、丁寧に靴を揃えたのだ。
 ギャングの格好をして目つきも悪くしているのに、躾が行き届いている本来の松永さんの姿にそれはないだろうと、須藤さんが指導していた。
 松永さんは靴を脱ぐ時に靴で靴を踏む事を嫌がり、眉間にシワを寄せながら練習していた。

< 72 / 257 >

この作品をシェア

pagetop