あの頃言えなかったありがとうを、今なら君に

1.紙コップのコーヒーを温める

「部長!先ほど頼まれていた資料なんですが⋯」
「あ、できた?ありがと、私の机に置いておいて!」
「理香子さぁん、お客様がぁ⋯」
「笹々商事様ね?私が対応しておくから貴女は上がっても構わないわ」


新入社員として22歳の時に営業部へ配属されて早19年。
わからないなりに突っ走り、今では営業部長として部下を背負い走っている。

相変わらずバタバタとせわしない日常ではあるが、もちろんやりがいだって感じていて。


「⋯っと、コーヒー冷めちゃったわね」

呼ばれるがまま対応した結果、社内自販機の紙コップに入っていたコーヒーがすっかり冷めてしまった事に気付いた私は、仕方なくその紙コップを掴み給湯室へ向かった。


「もうこんな時間か⋯」
はぁ、と思わずため息が漏れるのは、すっかり定時を過ぎ人の気配がない事で気が緩んだからか単純に年のせいなのか。

“年だったら嫌ね⋯”

それでも若い頃に比べ体力の衰えは感じるもので。


「あー、昔はもっと動けてた気がするんだけどなぁ」
なんて呟きながらレンジを開け紙コップごと突っ込み、時間を設定した。

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