目覚めたら旦那さまから暴虐王女と呼ばれましたが、身に覚えがありません

(どなたかしら……今日は来客の予定はなかったはずだけれど)


 不審に思いながらも門のほうへ向かったクラリスは、どかどかと敷地内に踏み入る数名の男たちと出くわした。


(兵士さんと──神官さま……?)


 男たちの出で立ちからそう判断し、戸惑いながら声をかけようとした、その瞬間。


「──────!」


 神官のうちのひとりが、何か呪文のような言葉を口にしながらクラリスに向かって杖の先端を突きつける。


(神聖魔法……!)


 まずい、と咄(とっ)嗟(さ)に背を向けようとした時にはもう遅かった。たとえ背を向けたところで、神官の放つ魔法から逃れることはできなかっただろうけれど。


 杖の先から放たれた光が無抵抗な少女を包む。にわかに視界が歪(ゆが)み、身体が大きく傾くのが自分でもわかった。


(倒れる──……)


 遠ざかる意識の中で、力の抜けた手のひらからパラパラと、摘んだばかりの花がこぼれていく。兵士たちが容赦なく、その花をぐしゃぐしゃに踏みつけるのが見えた。


(ああっ、せっかくばあやのために摘んだお花ですのに……)


 どう考えても、そんなことを考えている場合ではないのだが、世間擦れしているクラリスに普通の反応を求めるほうが酷というものだろう。


(綺(き)麗(れい)に咲いていたのに……ごめんなさい……)


 潰れた花を惜しむクラリスの耳に、兵士たちの会話が飛び込んでくる。


「しかし、陛下も酷なことをなさる」
「まさか、この娘を身代わり花嫁に仕立てようとは」
「しかも行き先はあの野蛮なダルア王国。命はあるまい」


(身代わり花嫁……? ダルア……? って、あの獣人の国のことでしょうか……?)


 彼らが一体何を言っているのか、クラリスは理解できなかった。


 問いかけようにも、身体中が痺(しび)れて声が出ない。


 やがて瞼(まぶた)が落ち、兵士たちの声が遠のいていく。そのまま、クラリスは完全に意識を手放したのだった。

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