花縁~契約妻は傲慢御曹司に求愛される~
「だ、大丈夫です……」


手で顔を隠すようにして返答したとき、手のひらにガーゼが貼られているのに気づいた。


「眠っている間に、処置はしておいた。抱く前に手当できずに悪い」


我慢できなかった、と頭頂部に口づけられて返答に窮する。

さらに一応私を風呂に入れ、汚れた衣類をクリーニングに出したと聞いていたたまれなくなる。


「俺が原因なんだから当然だろ」


こともなげに告げられ、焦って礼を伝えると、律儀だなと楽しそうに彼が眦を下げた。


「体がつらくなければ起き上がるか?」


そう言って、腕を伸ばして私の顔周りの髪を梳く。


「はい……あ、あの、今は何時でしょうか?」


視線を動かして時計を探す。

ベッドサイドに置かれたデジタル時計は午前八時を指していた。


カレンダー通りに休日がある私は、土曜日の今日は休みだが葵さんはどうだろう?


「逢花は今日休みだろ? 俺は午後から仕事だから……」


会話の途中で、どこからか甲高い電子音が響いた。

一瞬、眉をひそめた彼が自身に近いベッドサイドに手を伸ばして黒いスマートフォンを握りしめた。


「どうぞ、出てください」


「……悪い。よかったらシャワーを使っていて」


有難く提案を受けて、洗面所を探しつつ部屋を出た。

寝室のドアを閉める間際に見た背中は引き締まっていて、思わず見惚れそうになった。

体はどことなく軋むが歩けないほどではない。

明るい朝日の中で改めて見る室内の豪華さに圧倒される。
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