花縁~契約妻は傲慢御曹司に求愛される~
そのとき、軽いノックの音が聞こえて、店員がドレスと靴を包んだ紙袋を手に戻ってきた。

慌てて離れようとすると、彼が私の腰を抱いたまま店員に応対した。
 
頬が燃えるように熱く、キスの余韻で頭がクラクラしていて、顔を上げられない。 

親切に応対してくれた店員に礼を告げるだけで精一杯だった。

結局プレゼントしてもらったと回らない頭で考えながら、紙袋を手にした彼に手を引かれ店を出た。


「――社長、突然飛び出すのはやめていただけますか」


店員に見送られ通りに出た途端、長身の眼鏡をかけた男性が呆れた声で話しかけてきた。


「仕方ないだろ、やっと見つけたんだ」


いまだ私の手を握ったまま、彼が落ち着いた態度で返答する。


「逢花、俺の秘書の立川(たちかわ)だ。母方の同い年の従弟でもある」


紹介され慌てて頭を下げる。

手を離してもらおうとしたが、逆に強く握られ、そのままで挨拶をする。


「一路逢花です。はじめまして」


「秘書の立川と申します。よろしくお願いいたします」


立川さんもとても人目を引く容姿をしている。


「ご迷惑をおかけして申し訳ございません」


「逢花が謝る必要はない。俺がしたくてしただけだ」


「そうですよ、社長の我がままなんですから」


遠慮ない物言いにふたりの気安い関係性が伺えた。


「ですが、社長にはご予定があるのでは……」


言い淀むと繋いだ手をほどいた彼が、私を真正面から見つめた。
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