花縁~契約妻は傲慢御曹司に求愛される~
「いいえ、あの、ごめんなさい……甘えた言い方を……」


「謝らなくていい。結婚するのだし、素直な気持ちをぶつけてほしい」


私の失言を気にした様子もなく、再び私の顔を覗き込む。


「おいで。食べられそうなら遅めの夕食にしよう」


体を離し、ベッドから降りた私と指を絡ませた依玖さんに寝室の外に案内される。

今は午後十時を過ぎていると言われ、驚いた。

夕方前にこの部屋に入り、ずいぶん長い間抱かれていた自覚はある。

その後、眠っている私の体を清め、着替えさせ、再び寝かせてくれたと聞いて予想していたとはいえ顔から火が出そうだった。

消え入りそうな声で礼を口にするのが精一杯だ。


「真っ赤、今さらだろ? ……可愛いな」


「か、可愛くないです!」


湯気を立てる料理が並ぶ四人掛けのテーブル席に腰を下ろす。

私の頬に長い指が触れると、情事の余韻が残っているせいか肩がピクリと跳ねた。


「ほら、やっぱり可愛い」


クスクス声を漏らす、依玖さんの色香に惑わされる。


なんで急に、甘い態度になるの? 


どうして何度も可愛いなんて言うの?


「適当に注文したけれど、大丈夫か?」


そう言って、私に柔らかなパンとミネストローネスープを勧める。

ほかにも消化のよさそうな料理が幾つかあり、遅い時間帯に配慮した食事に胸の奥が温かくなる。


「はい、ありがとうございます」


「逢花、敬語」


私の真正面に座った依玖さんがやんわりと指摘する。
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