別れさせ屋に依頼をした私の結末

Side 01 ♧ マツヤマミナ ④

翌日の私は、休憩時間を迎えるたび、トイレへ足を運んでいる。

お腹を壊したわけじゃない。マチから声をかけられないよう逃げているだけ。

「そういえば、横川と白井さん別れたんだって」

「えっ、なんで!? めっちゃラブラブだったのに!」

女子トイレは、ウワサや陰口の宝庫。

個室の中で、便座をイス代わりにして時間を潰していると、水道を使っている子たちの声が耳に届く。

「ねー、びっくりしたよ。でも、なんで別れたのかを聞いても、ふたりともはっきり言わないらしい」

「ええー。あのふたりは別れないと思ってた」

「私も。親公認だったみたいだし、あのまま結婚しそうだったのに……」

私と大樹も、こんなふうに誰かから言われているのかもしれない。別れそうだよね、って。

「ね、もしかしたらアレかもよ?」

メイク道具のコンパクトを閉じた音の後、ウワサ話をしていたひとりの声色がワントーン低くなった。

「アレって?」

「“別れさせ屋”。横川ってモテるからさ、誰かが依頼したんじゃない?」

「え~! まさかぁ」

男女に別れに関するウワサの矛先(ほこさき)は、やっぱりそこへとたどり着く。

個室で息をひそめていた私は、話の展開をくだらなく感じて、わざと水を流した。
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