逆境に咲いた花は、可憐に匂いたつ
出逢うふたつの影
  空はどんより曇っていた。

 辻馬車はしだいに速度を落とし、川のほとりで止まった。そこから若い男女の二人が降りてくる。
「わ、悪いな、俺はもう持ち合わせがないんだ」
 ギースはバツが悪そうに頭を掻いた。

 ケイネ伯の息子だというのに薄汚れた身なりだった。
 意味もなくにやつき、視野の中でこっちを窺っている。
 感じるものは嫌悪だけだ。しかし彼について行かねば、とソフィーは息を詰めた。

 二人が歩く街道は片側に商店が並び、その片側は川だった。
 行き交う人はまばらだ。
 しかしその視線はすべてこっちに注がれているように思えた。彼らの目に自分はどう映っているのだろう。

 これからギースとケイネ伯邸へ行く。そこで何が待っているのか。

 ソフィーは頭上を振り仰いだ。
 空から、今にも雪が舞い降りてきそうだった。


         * * * * *
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