逆境に咲いた花は、可憐に匂いたつ
 するとあれがバッハスの前王なのか。

 病的なほど色白で神経質そうな顔をしている。

「お急ぎください、味方がこの下で集結しています」
 言われるまま前王が進む。
 追われているのか早足だ、たちまち木立へ消えた。

 アーロンは瞬きもせず見入っていた。

 あれがグリントールを侵略しようとした王か。一万の大軍を送り込んで死闘を繰り広げた張本人なのか。
 ここに来てこの至近距離で見る事になろうとは。

「・・バッハスの民に任せましょう」
 宰相が告げた。
「もう彼の力は削ぎ落されている。例え生き延びたとしても、その先はバッハスの群衆が待っているはずだ。国をこれほど混乱させた王であることを国民は知っているのですよ」
 達観した顔だった。
 それを見つめ返した、そしてうなずいた。

 丘の尾根まで辿り着いた。

 眼下にグリント―ル軍が見える。
 五千の兵が陣を敷いていた。そしてアーロンを待っていた。
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