追いかけろ、青。




周りは立ち上がるなか、私が座った席だけが沈んでいた。

隣ではおじさんが同時に流すラジオから伝わってくる、地方局からの実況。



「とーもーりっ!とーもーりっ!かっとばせーー!とーもーりっ!!」



ねえ、甲子園が目の前にあるんだよ。
あんなに言ってた甲子園が。

こんなものじゃない暑さが、熱さが、すぐそこにまで見えてる。



『なあ、もし俺が本当に甲子園行ったら……欲しいものあんだけど、くれる?』



最初なんか甲子園は目指してないって言ってた格好悪いヤツだったのに、急に変なことを言ってきて。



『…口説いてるの、その子のこと』


『うん。口説いてる』



こんなこと言ったらあんたは笑うだろうけど、まるで『それを叶えるために甲子園に行く』って言われたみたいに聞こえたんだよ。



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