限界王子様に「構ってくれないと、女遊びするぞ!」と脅され、塩対応令嬢は「お好きにどうぞ」と悪気なくオーバーキルする。
「……怒られた。だから、もうやらない。けど、お金は大丈夫だ。ミズヴェア王国も豊かで俺と結婚しても、借金で苦しむことはない。安心してくれ。ローレン」

「お父様も、お母様が亡くなるまでは、普通だったんですが……」

 きっと両親のことを知り、私を安心させてくれるために言ってくれたんだと知り、心が温かくなった。

「そうか……今はメートランド侯爵は、どうなさっている? 俺も出来れば、ご挨拶がしたいんだが……」

 現在表向きは病気で伏せっていることになっているお父様は、仕事を投げ出し貴族院にも出入りせず、私が婚約者になった時も登城して挨拶することはなかった。

「今は借金も返し終わり、お父様には専用の使用人を何人か付けています。お酒も以前に比べると減ってきていて……以前は庭師を雇う余裕すらありませんでしたが、邸も以前通りに調えば、お父様も気持ちが晴れるかも知れません」

 お父様は私がとある仕事の報酬に借金を返したという事実を知り、それもまた泣いていた。それでも、私はクインのようには彼を嫌えないのだ。お母様も生きていた頃の、優しく穏やかだった父を知っているから。

「……俺も、君を喪えば、どうにかなってしまうのかもしれない。それは……その時になってみないと、わからないけど」

 ギャレット様は、宙を見てそう言った。確かに、その通りだ。

 未来はどうなるかなんて、今生きている誰にも見通せるはずがない。




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