限界王子様に「構ってくれないと、女遊びするぞ!」と脅され、塩対応令嬢は「お好きにどうぞ」と悪気なくオーバーキルする。
 自分より低位しかも年下のご令嬢に侮辱されても、家族を守るために誇りなどすべて投げ捨てた弱い立場に居る私は黙って頭を下げて耐えるしかない。

 ……本来ならこんなことなんて、したくないのに。

「ペルセフォネ様。本当に申し訳ありません」

「残されているのは古い歴史と侯爵位だけの、貧乏貴族が……ちゃんと、自分の身の程をわきまえなさいよね! あんたは、ただの私の代役。私こそが、ギャレット殿下と結婚するんだからね!」

 必死で声は抑えているもののペルセフォネ嬢には、どうしてもここで私を罵倒せねばならないくらいには、先ほどギャレット様の行動を我慢出来なかったようだ。

「かしこまりました……申し訳ございません。このようなことは、今後決してないようにいたします」

 どんなに理不尽だと思っても、頭を下げて大人しく謝るしかない。だって、私が不満も辛さも何もかも飲み込めば、皆が幸せになれる。

 だから、こうするしかないんだわ。

「ふんっ! 少し目を掛けられたからって、良い気にならないで」

 周囲にはおかしく思われてはいけないと、私は黙ったままで無表情を保ち去るしかないのだけど、ペルセフォネはより苛立った表情になっていた。

 時折こうして私に釘を刺していく彼女はこうした企みが、怒りを我慢できぬ自分の軽率な行動により、明るみに出ても良いのかしら?

 ……私は嫌だ。

 あんなに優しくて真っ直ぐな人に嘘をつくことにしたのだから、本当は私自身が苦しんでいたことなんて、何も知られたくない。

 ペルセフォネ嬢が晴れて社交界デビューを果たし私は婚約者を辞退し……そして、裕福な大富豪の手を取った嫌な女として可哀想なギャレット様の前から去って行きたい。

< 13 / 165 >

この作品をシェア

pagetop