限界王子様に「構ってくれないと、女遊びするぞ!」と脅され、塩対応令嬢は「お好きにどうぞ」と悪気なくオーバーキルする。

20 幸せ

 私は両親の過去から続く因縁で外国に売られてしまうかもしれないけど、何の関係もないギャレット様を悲しませるのは、私は絶対に嫌だった。

 ……だとするのなら、私はここで命を断った方が良いのかもしれない。

 世界のどこかで……私が不幸だと思って探しても見つからずに苦しむよりは、美しい過去が汚されない方が良いのかもしれない。万が一には、無事に降り立って逃げられるかもしれない。

 最悪か、もっと悪い最悪か。私に今選べるのは、二つの選択肢しかない。

 この部屋には王妃と私と、扉辺りに何人かの男性が居た。おそらくこの家は逃げ出しようもないくらいに、包囲されていて……絶望的な状況だ。

 彼を悲しませたくない。騙そうとしたのに、それでも私を好きだって言ってくれたあの人を、不幸にしたくない。

 愛する人を喪ったとしても、乗り越えられる人だって居るのだから、きっと彼だってそうだ。

 ……そう思うしかない。ドレスの裾を持った私は素早く窓へと動いたので、この場に居た彼らは驚いたはずだ。

 そんな時にも、王妃は落ち着いて微笑んでいた。

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