限界王子様に「構ってくれないと、女遊びするぞ!」と脅され、塩対応令嬢は「お好きにどうぞ」と悪気なくオーバーキルする。
 けれど、彼女は過去にあった失恋のこだわりを捨てることが出来ずに、自分が幸せになる機会を潰してしまったのだ。

 それは周囲の人から見れば、一目瞭然の事実であったとしても、怒りに目がくらめばわからなくなってしまうことなのかもしれない。

「そうだな……だが、俺の母も自分が役目を果たせなかったから、父があの人の元へと通うことに泣いていた。父も自分が王であるから、役目を果たさなければならなかった……自分が今不幸だからと誰かが悪いと考えるのは、あまり良くないことだろうと思う。俺の母は、自分のことを責めていた。だが、俺も周囲もあの人が悪いとは思わなかった。敢えて言うのなら、全員が悪いとも言える。誰かを責めても意味はない」

「けど……私……あの」

「ん? 何?」

 ギャレット様は抱きかかえている私が言いづらそうなのに気づき、何が言いたいのかと不思議そうだ。

「そっ……そろそろ、降りたいです! ギャレット様が嫌なのではなく、はずかしくてっ……」

 そうだ。さっきまで非日常の雰囲気に飲まれて、なんとも思っていなかったけどやっぱり恥ずかしい。

 これって、私がギャレット様のことが好きだからだ。一緒に居ると恥ずかしくて、逃げ出したくて、けれど傍に居たくて。

「嫌だよ……俺はさっきまで君を失うかもしれないと、不安で堪らなかったんだ。気の済むまでこうして抱かせてくれ」

 狭い馬車の中での二人の攻防に、どっちが勝利したのかは想像にお任せすることにする。


Fin


お読み頂き、ありがとうございました。
もう少しヒーロー視点が続きます。



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