限界王子様に「構ってくれないと、女遊びするぞ!」と脅され、塩対応令嬢は「お好きにどうぞ」と悪気なくオーバーキルする。

06 区切り(side Garret)

 国を継ぐべき王太子として生まれたからには、見知らぬ相手だとしてもこの相手と結婚しろと言われれば、黙って政略結婚をすべきであろうと考えていた。

 帝王学では役割と義務と、己の為すべき使命を学ぶ。そこには、個人的な感情が優先されることは一切ない。

 全を生かすために、個を殺す。王となる俺は頂点にありながら、犠牲になる個となる使命を負う。全が生き延びられるならば、それはほんの些細なことだ。

 もし、俺という個が消えれば、誰かが代わってその席に座るだろう。それだけの、単純な話。

 だから、ある日婚約者だと紹介された女を見た時にも、何の感慨も持てなかった。美しい娘だと思ったが、美しい女性なら城の中には腐るほど居る。俺はこの女と結婚して子をなすのかと思った、その程度だ。

 メートランド侯爵家が窮地にあることは、何年か前から有名だ。借金がある状況を知り、王太子妃になり王妃となれば与えられる金目当てだったかと思ったものの、俺の父母に選ばれたローレンには何の罪もない。

 そう思いつつも、彼女の詳しい事情を知れば、やはり嫌悪感が増した。金や地位目当ての人間は、俺の周囲に今まで腐るほど存在し、その度に数え切れぬほどに嫌な思いをして来たからだ。

 日課である剣技の鍛錬を終え、深夜に歩く城の渡り廊下は、昼日中のような騒がしい人通りもなくしんとしていた。

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