限界王子様に「構ってくれないと、女遊びするぞ!」と脅され、塩対応令嬢は「お好きにどうぞ」と悪気なくオーバーキルする。
 ローレンは父親を支え、気丈にもいろんな物を抱えているのだろう。俺はそういった事情を察することも出来ずに、短慮で彼女を決めつけてしまっていたのかもしれない。

「愛する者を喪い、正気を失うか……それほど愛されれば、女性は嬉しいのだろうか」

 父は母を喪っても、泣き暮らすことは許されなかった。かと言って、許されていたならそうしたかというと、それは疑問だ。

 国王には私情を仕事に持ち込むことは、許されない。父は感情を殺すことには、慣れているだろうから。

「どうだろうか……俺ならば、たとえ先に自分が死んだとしてもその後は幸せで暮らして欲しいと思うと思うが……ああ、あの子は帰って行ったよ。ギャレット。良い仕事したな。ご苦労さん」

 ガレスは人目のあるところでは護衛らしい言葉使いになるのだが、二人になるとこうして砕けた口調になる。

 そうしてくれた方が良い。常に何もかもが堅苦しければ、解き放たれたい思いも強くなるだろうから。

 とは言え、それからというもの俺はあんな風に泣いていたローレンが俺の月琴を聞いて笑ってくれた光景を想像しては、思い出し笑いをしてしまい嬉しくなった。

 どんな風に笑ってくれたのだろう、と。見られなかったからこそ、見たくなったのだ。彼女の心からの笑顔を。

 俺がローレンが気になり出したのは、はっきりとこの夜からだったと言える。はっきりとした、区切りがこの時だ。

 何の意識もしていなかった若い女の子が、俺の恋愛対象へと変わった時だった。

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