鬼の生贄になったはずが、溺愛されています
その声は優しかった。
人間にどれだけ攻撃されても決して反撃しないどころか、ハナのことを大切に思っている男の声だった。

鬼の体から感じられる雰囲気は、とても恐ろしいものではない。


「……ハナにとってはどうなんだ」


武雄はその場に立ち止まったまま、そう聞いた。
ハナは泣き出してしまいそうな顔をしているが、グッとこらえている。

……強くなったな。
生贄にされて3週間ほどの間に、昔のハナにはなかった強さを感じられるようになっている。


「私にとっても光鬼は大切な人よ。誰よりも」


その言葉は武雄の胸に突き刺さる。
村にいたとき、ハナはたしかに自分に心を寄せていた。

幼い頃からずっと一緒にいて、いずれ結婚するものだと互いに感じあっていた。
だけど今はもう違う。
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