わがままだって言いたくなる

第12話

とにかく、乳幼児というものは
抱っこおんぶが繰り返ししないと
泣き続けるという特徴があった。

朝起きてから、泣く、抱っこ。
ご飯だとさわいで、抱っこ。
嫌いな食べ物が出てくると
ちゃぶ台をひっくり返すお父さんのように
食べ物が乗った皿ごとバシンとたたく。

せっかく可愛く作ったにんじんの星型も
宙に舞う。

本当の星だったら嬉しいのに
皿から口で運ばれずに床にポトンと
落っこちる。

何が気に食わないんじゃぁと
涙が出そうなくらい悲しくて
額に筋が出そうなくらいイライラするのを
おさえて
果歩は黙々と落ちた野菜たちを拾う。
かろうじて卵は好きなようで、
全部食べ切っていた。

離乳食が終わったと思ったら、
通常の食事でこの調子。

母は、日々鍛錬。日々修行。

怒りを抑えるのもたまに忘れて
感情のままあらわすこともある。

「もう、食べなくていい!!!」

お皿ごと投げられて、
ブチ切れた瞬間だった。

疲れてても頑張って可愛いクマさんのお皿に用意した食事。

よりによって、今日は飲み会だと言って
いない晃。

比奈子と2人きりの夕飯にちょっとうんざりしていた果歩。

こうやって、頑張って作っても
食い散らかされ、食べ物を放り投げる。

食べ物はおもちゃじゃない。

食べたくない野菜なのはわかる。

食べたいものだけ食べて投げるのは
やめよう。

…と言っても、怒ればギャン泣きされる。

こっちの方が泣きたいよ。

なんだって、どうしたらいいかわからない。

(本当に融通の効かないお母さんだな。
 嫌いなものばかり出すんじゃないよ。
 何回投げても気づかないんだから。
 口で話したら、気持ち悪いって
 思われるから
 態度で示しているのになんで
 わからんのじゃーー。)

果歩はかなり真面目人間だ。
マニュアル通りに進めないと気が済まない。
保健師指導で言われた通りに
野菜、お肉、ごはん、味噌汁は必ずと
言われたら、嫌いでもなんでも出す。

大人でも絶対これは嫌いという食べ物あるはずなのに、無理矢理食べさせようとする考えを無くして欲しくて、比奈子は何度も訴えている。

維持でも食べてほしいらしく食事メニューは変更するという考えには至らない。

比奈子は諦めも時には肝心だよと
言いたくなった。

お互いに頑固な性格だったのかもしれない。

コブラとマングースのようだ。

「もう、わかった。
 明日、電話して、保健師さんに
 相談してみよう。」

果歩は、食べさせることをとりあえず、
やめて
気持ちを切り替えた。

(てか、保健師っていうけど
 結局食べるのは私なんだよね。
 相談する人間違えてるよ。
 その保健師さんとお母さん、頭かたくて
 同じ考えしているから変わらないと
 思うな…。
 相談するなら私に聞くべきでしょう。)

 テーブルに固定されたキッズ用の椅子に座って、比奈子はため息をついた。
 生まれてから、1年と6ヶ月はすぎていた。
 まだ、片言しか話せていないが、
 あれ嫌、これ嫌などと、2語分程度は
 話せていた。

 連日、夜寝る前に、
 鬼のような読書時間を
 設けられているせいか言葉覚えは
 早いようだ。

 果歩は東大卒業のアドバイスを
 Instagramで発信してる子育て方法を
 熱心に見ていた。
 頭が良くなるには、
 読書する時間を増やすこと。 
 1日に10冊読むと良いと書かれた文字に
 反応して、それを真似て
 頑張っているようだが、
 比奈子は熱心すぎて逆に
 右から左にスルーする技を見つけたり、
 コクンコクンと寝ていることが多かった。

(そんなことしなくても
 前世は大学卒業してるし、
 学力は大して変わりないっての。
 見たことある絵本ばかりで
 飽きちゃうんだよね。)

 あくびをして、比奈子は眠りについた。

「比奈子、聞いてる?」

 わずか1歳6ヶ月に、長い文字が書いてる
 絵本なんて読んでいる果歩は、
 納得できずに本をパタンと閉じた。

「もう、読んでる途中で寝ちゃうんだから。
 ま、明日でいいか。
 とりあえず、8冊は読めたから
 ミッションはまぁまぁ達成だね。」

食事に関しては食べさせバトルはあるが、
寝る前の入眠儀式は割とあっさり受け入れていた。
絵本を読むということは非認知能力養うと
言われている。

果歩は育児に教育に必死に取り組んでいたが、それ以上に前世の記憶が残っている比奈子は、絵本の内容と言うより、母と一緒に過ごすという空間を楽しんでいた。

絵里香だった頃の幼少期は、
一緒に絵本を読むという習慣がなかった。
毎日、仕事で忙しくしていた絵里香の母は
余裕がなくて、1人で寝なさいと
何度も言われ、枕を濡らす日々が続いて、
それでも寂しい夜を耐えた。

寝る前に母がそばにいるという温もりに
触れて、心が洗われるようだった。

本を真面目には読んでなかったが、
果歩の腕をしっかり掴んで
すやすやと眠りついていた。

何歳になっても、
母と一緒にいるという時間は
貴重なんだと転生してから気づいたの
だった。


人恋しいと思うのが多いのは
幼少期の満たされない何かを埋めたくて
誰かがいないと落ち着かないになるの
だろうか。

人によっては幼少期の満たされない気持ちが
超越して、1人でも全然平気という気持ちに
なっていることもある。
逆にそれは人を寄せ付けないオーラを
発する。


人は1人では生きていけない。

人から愛されるには、
人を寄せ付けないオーラより
人を寄せ付けるオーラを発して
生きて欲しいものだ。



日々成長して、
まったりした昼下がり、
昼寝をしない比奈子を横に
果歩は育児書を読み込んだが、
明確な答えは見出せなかった。


(だから、目の前にいる私が答えだって
 言うのに、わからない人だなぁ。)


比奈子は、本を読む果歩の背中に乗り、
おんぶを迫った。

「はいはい。」

と返事しながら、おんぶされて
そのまま本を読み続ける。

(その本と私、どっちが大事なのか…。)

そんな疑問を抱えながら
毎日を過ごしていた。

果歩が前に資料請求して届いてた
ネイリストのテキストは
ホコリをかぶって本棚の奥の方に
行ってしまっていた。

一時は資格を取って、
自宅でネイリストをしようかと
考えていたが、
こんなに手のかかる比奈子だとは
思わなかったため、
シフトチェンジした。

仕事と育児、バランスの良いように
働けるかが母の役割だ。

育児の難易度が示すことができたら
どんなにいいか。

その子ども次第で母親との関わりを
欲するか欲さないか。

仕事はフルタイムやパートタイムと選べるのに育児にも数値化できるものがあると良いのになと感じる。

そんなものは
親子のお互いの心の問題で
示しようがない。


果歩は義務教育とされる3歳前までは
働かずに過ごそうと決めた。
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