わがままだって言いたくなる

第14話

 居酒屋は常連客で賑わいを見せていた。

 バイトの子があっちに行ったり、
 こっちに行ったりしている。

「いらっしゃいませ。
 お客様、何名様でしょうか?」

「えっと、3人です。」
晃は入ってすぐに答えた。

「3名様、ご案内します。」

「いらっしゃいませ〜。」

 奥のキッチンの方でも挨拶するスタッフの声がした。とても元気が良い。

 3人は、バイトのスタッフに
 着いて行き、座敷に案内された。

 席の並びは自然に智也の横に響子に
 向い側に晃ということになった。


「ご注文がお決まりになりましたら、
 ボタンを押してお呼びください。」

 スタッフはテーブルにメニューを並べて
 立ち去った。

「さぁ、さぁ。何にします?」

「えっと、私、お2人に合わせますよ。
 初めはビールですよね。」

「お?わかってるじゃん。
 智也、どうすんの?」

「俺もビールですね。
 プレミアム生ビール!
 小松さんもそれですよね。」

「だな。あと適当につまむものも
 一緒に頼んでおこう。
 鳥の唐揚げと、
 最近栄養バランスも気になるから
 サラダとか一緒にいい?」

「小松さん、ここに来て
 それですか?」

 智也は、晃をじーと見る。。

「私もサラダ食べますよ。」

「お腹が気になるお年頃なの。
 サラダ重要だよね。
 ほら、鈴木さんも食べるってよ。」

「はいはい。
 俺も食べるのに付き合いますよ。
 あまり好きじゃないんだよなぁ、
 緑の野菜。」

 頬杖をついてため息をつく智也。

「そんなこと言ってるとすぐ体壊すぞ。
 独身だからって何でも
 食べていいってことはないから。
 健康のことも考えな。」

 晃はアドバイスする。

「え、岸谷さんって独身なんですか?」

「え、ああ。うん。そうです。
 聞いていいのかわからないけど、
 鈴木さんも独身ですか?」

「…別にセクハラとか言いませんよ。
 私も独身です。……最近。」


「え、あ、え!?何、その意味深な答え。
 もしかしてのもしかして、バツイチ?」


 鈴木は、黙って頷いた。


「あーーー、そうなんだ。
 バツイチか。」

 智也はがっかりした様子で、
 表情を曇らせた。

「まぁ、まあ。とりあえず、注文しよう。
 ボタン押して。」

 晃は智也に声をかけて、スタッフを呼び、
 決めていたメニューを頼んだ。

 しばし沈黙が続き、ビールがそれぞれの
 テーブルに届いた。

「歓迎会ということで乾杯!」

 グラスがカツンと鳴った。
 ビールの泡が動いた。

「あーーー、やっぱ、うまいわ。」


「うん。これですよね。」


「美味しいです。」


一口目のビールを飲んでホクホクしていた。

「そうそう、鈴木さんと同じで
 ここにいる小松さんも2度目の
 結婚ですよ。」

「うわ、ばか。まだ言うなって。
 俺から言おうと思ってたのに。」

「え、そうなんですか。
 すごい奥様とラブラブな印象を
 お聞きしますが、
 2度目だとは気づかなかったですね。」

「まあ、言わないとわからないでしょう。
 1回や2回なんて…。
 鈴木さんは、理由聞いてもいいの?
 なんで独身になったのか。」


「あ、まぁ。私の場合は、
 許嫁と結婚するはずだったんですが、
 いろいろ諸事情が出てきまして、
 入籍した後に彼が別な方との子ができたと
 言われまして…。
 そのまま離婚です。
 本当は結婚式をあげるときから
 気づいていたんです。
 私のことは全然好きじゃなかったって。
 親からの勧めで今回結婚ってなったわけで
 本人同士の気持ちは確認してなかった
 ので…。
 24歳って若いってよく言われますけど、
 早くも苦労してます。
 私。」


「あー、波乱だねぇ。
 大変だ。
 ってことはその彼はもう一人の彼女が
 いたってこと?」


「そうです。
 私にずっと隠してて言えなかったって。
 相手の方に子どもができて
 言わなくちゃいけなくなったって…。
 私のこと、 
 少しも考えてくれてなかったのが
 ショックで…。」

 智也は頬杖をつきながら

「こんなにまつ毛長いのに、
 振るなんてひどい男だね。」
 
 メガネ越しに見えるまつ毛が長いことが
 わかったらしい。

 マスカラもつけまつげもつけてない。
 ビューラーさえもしてない。
 地毛のまつ毛だ。

 そう言われて、鈴木は酔っていたこともあったがポーと顔が赤くなった。

 酔った勢いで発した言葉だろうと気づいた晃は、智也の顔の前で手を振ってみたが、何も反応しない。

「まだビールしか飲んでないのに…。
 他にも頼んでおくか。」

 晃は、メニューを見て、
 ハイボールを注文した。

「鈴木さんもハイボール飲む?」

「はいぃ。飲みます。」

「本当に何でも飲めるんだね。
 うちの奥さんはビール苦手で
 チューハイだけだよ。」

「そうなんですかぁ…。」

 メガネを掛け直した。
 酔いが少しずつ回ってきたようだ。

「俺、早く、結婚したいなあ。」

「なんだよ、急に。」

「だって、バツイチってことは
 1回でも結婚したんですもんね。
 俺も、やっぱり1回でも結婚したい。
 モテたい!!
 でも女子が少ない。
 鈴木さんしかいない。
 あ、あと居酒屋のお姉さん?」

「近すぎるんじゃないの?
 今、流行りのマッチングアプリとか
 使えば?
 そういや、今じゃ、
 オンラインゲームのオフ会で会った人と
 結婚するってあるらしいけど?
 智也、ゲームするんだろ?」

「あー、そうっすね。
 シューティングゲームしますよ!
 バキュンって…。
 でも、あれ、顔見えないし、
 声だけっすよね。
 オフ会って顔がイメージと違ったら
 どうしようと思いません?」

「お前、顔で判断するわけ?
 話が合えば顔なんてどうだって
 いいだろ?
 可愛い子とか綺麗な子って言ってる
 時点で結婚は遠ざかるよ。」

 頬を膨らませた智也。
 鈴木は話にどんどん入り込む。

「え、岸谷さん、ゲームするんですか?
 私もやりますよ。
 ゲームは私大好きなんです。」

「え、そうなの?
 んじゃ、フレンドコード教えて。
 フィールド行動って言うゲーム知ってる?
 俺、今、めっちゃやり込んでて、
 課金も少ししてるのよ。
 時々、アニメやゲームのコラボして
 面白いんだよね。」

「知ってます、知ってます。
 ちょっと待ってくださいね。
 今、スマホで見てみます。
 ライン、教えてもらってもいいですか?
 コード送りますから。」

「おう。はいよ。QRコード。」

 智也は自然にスマホのQRコードを見せた。
 鈴木は、パパッと読み込んで登録した。

「若い子はいいねぇ。
 盛り上がるものがあって。」

 ハイボールが入ったグラスを持ち上げて、
 カランカランと氷を鳴らして飲んだ。

「何言ってるんですか、
 年齢関係ないですよ。
 一緒にやりません?」

「俺、ゲームは別に興味ないから。」

「そうなんですか?楽しいのに。
 無理には誘いませんけど…。」


 どこか寂しそうな晃を鈴木は
 見逃さなかった。

 智也は、鈴木とゲームがやれることに
 嬉しいそうにしていた。

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