わがままだって言いたくなる

第23話

遠くでミンミンゼミが勢いよく鳴き始めていた。暑さが倍増する。

「あ、暑いですね。」
隆二の母のあずさが話を切り出した。

「本当、今年は暑いですね。
 エアコンが無いと夜は眠れないですよね。
 でも、ここは緑が多いからか、
 少し涼しいですよね。」

亜梨沙が返答する。

「やっぱ、男手連れてきてよかったですね。
 私たち、こんなにゆっくりできるから。」

 果歩は、ベンチに座り、ママたちと
 話が盛り上がり始めた。
 持ってきていたうちわでパタパタと
 仰いだ。
 小さな自動扇風機を持っているのは
 あずさだった。

 亜梨沙は首にネッククーラーを
 つけていた。

 笑いながら話をしている中、晃は黙々と 
 作業に取り組んでいた。
 
 網にスキレットを2つ置いて、
 1つはあさりと鶏もも肉が入っている
 パスタパエリア。
 もう1つは分厚めのステーキを作った。

 デザートにはポップコーンを
 用意していた。

 ただお肉を焼くだけでは
 つまらないだろうと
 スマホで前日に調べておいた。

 いつも作ってもらっているため、
 今日は恩返しができるようにと
 必死でおもてなしを頑張った。




 その頃の比奈子は。

「ちょっと、押さないでよ。」

 隆二は、ブランコに乗る比奈子の
 背中を押していた。

「優しく押してるだろ?」

「押さなくても漕げるから!」

「はいはい。」

「隆二くん、比奈子ちゃんに
 いじわるしちゃダメ!!」

 隣のブランコに乗る美咲は隆二を
 注意した。
 そう言われた隆二は舌打ちをした。

「おい、舌打ちするの良くないぞ。」

 正義感あふれる小学1年の奏多は、
 隆二にさらに注意した。

「なんだなんだ。俺の敵になるのか!?
 やんのか?」

 ヤンキーのような風貌の3歳児。
 全然怖くない2人。

「比奈子ちゃん、行こう。
 隆二くん、いじわるしかしないから。」

 ブランコに乗っていた奏多も移動して、
 1人鉄棒の方に行った。

 比奈子と美咲は、仲良く、
 シーソーを乗りに行った。

 ライバルが登場で
 うまく立ち振る舞えない隆二は、
 1人でうんていをジャンプして
 最初から最後までこなしていた。

 3歳で全部できるなんてって
 本当ならば褒められる場面だが、
 誰も褒めてくれる人はいなかった。

 せっかくできたのにと地面をパンチした。

 子どもの世界と大人の世界のじゃれあい方を知らない前世が龍次郎の隆二は、困惑していた。



「それにしても、果歩は、すごいね。
 よく旦那さん、このBBQ着いてくって
 言ってくれたね。
 うちで、
 暑いから家でゲームしてた方いいとか
 子どもみたいなこと言うのよ。
 でも、今日は結局仕事で連れて
 来れなかったんだけどさ。」

亜梨沙は
ペットボトルのお茶を飲みながら話す。
焼き方をしていた晃には聞こえていない。

「弱みでも握ってるかもよ。」
 
「え、うそ。そうなの?」

「まさかぁ。無いよ、そんなの。
 たまたまね。そう、たまたま。」


果歩は、
本当は喉から手が出るほど言いたかった。
ほとんど家のことしてくれないし、
帰ってくるのも遅かった。
土日もまともに家族サービスしてないんだよと言いたかったが、この場所では控えておこうと思った。

「そうなんだ。
 でも、親子3人揃ってて仲良しだね。
 うちなんて、2人目できたときから
 ほとんど家のこと
 考えてくれなくなったよ。
 自由な旦那。もう期待してない。
 金稼いでくればそれでよしって
 思ってる。
 あっちもこっちに興味ないし。」
 
 亜梨沙は気持ちをぶちまけるように言う。

「いいなぁ。
 うちでは逆でソクバッキーだよ。
 ラインの相手とか、どこに出かけるとか
 すごい激しいの。今日も誰が来るかとか
 人数とかも細かく言わないとダメ。」

「うわ、それ嫌だね。
 もしかしてGPSも管理されてるの?」

「その通り。ほら、設定外したら
 怒られるの。
 心配症でね。
 今では、気持ち切り替えて
 愛されてるって思うように必死で
 耐えてる。」

「えー、それってモラハラじゃないの?」

「それは、
 自分が嫌じゃなければセーフでしょう。」

「実は、嫌だと思いつつも、心配されないと
 逆に困るって言う時もある。
 連絡ないな?って。」

「もう中毒になってるよ。」

「本当。でも、それ聞いて、
 うちで結構自由だなぁって思った。
 お互いにそこまで干渉してないから。」

 果歩は少しホッとした部分があった。
 本当は構われたいと言う気持ちが少しあったからだ。

 夜中に自分よりもゲームに夢中になっていた旦那のことを考えると束縛が逆に羨ましいと感じる一方、関心がなくてよかったと
考えてしまう。

「お待たせしました。
 できましたよ〜。
 食べましょう!」

 晃は、準備ができたようで、
 それぞれに割り箸を配り、
 子どもたちを呼びに遊具まで走った。


 すると、
 比奈子が地べたに座って泣いていた。

 近くには隆二がいて、少し離れて
 奏多と美咲がいた。

 晃が駆け寄ってわけを聞く。

「比奈子、どうした?」

「転んだぁ。」

 横から、そっと寄り添って
 隆二が頭をなでなでする。


「そっか、痛かったな。
 でもほら、血出てないし。
 大丈夫、すぐ良くなるよ。」

 おんぶしようと背中を見せたが、
 汗がびっしょりのシャツには
 乗りたくないと思った比奈子は立ち上がって果歩の方へ走って行った。

「プッ。逃げられてやんの〜。」

隆二は口をおさえて笑っている。
額に筋ができた。

イライラをおさえて、
ごはんの準備ができたことを3人に教えた。

心の中で大泣きしていた晃だった。
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