放課後はキミと。



「……ううん違う、と思う」
疑うこともなく自然とそう思えた。

外見で判断されてきた彼だから。
だから、たぶん。
余計に女の子を見た目で選ぶなんてことしないと思う。

「じゃあ今のお似合い云々は悩む必要ないことなんじゃない?」
紗世のその言葉は、ストンと胸に落ちた。
「それに大事なのは、りんがどうしたいのか、でしょ?」
「……あたしが、どうしたいのか」
「今のりんは憶測ばっかりして、ごまかして、自分が傷つけたくないから逃げてるだけなんじゃない?」

逃げてるだけ。
それは、容赦なくあたしの心に突き刺さった。
まさにその通りだと、思ったからだ。

「りんはどうしたいの?」

あたしは、どうしたいんだろう?

「あたし、は……涼村くんのこと、もっと知りたい」

兄弟はいるか、とか、何が好きか、とか、どんなことをしてるときが楽しいか、とか。
そんな些細な会話をして、涼村くんがどんな人なのかを、もっと知りたい。

「うん。じゃあ、いっぱい話せばいいじゃん。せっかく付き合ってるふりしてくれてるんだから」
とりあえずあたしが頑張れることをしたらいい、と言ってくれてる気がした。
「私はさ、涼村くんにぶつかる前から、りんがその恋をあきらめるなんて、嫌だよ」
真剣な顔でそういわれて、あたしはハッとした。
「りんが涼村くんを好きっていったとき、すごくかわいかったし、応援したいと思った。だから、頑張ってみてよ。頑張ってからあきらめても、遅くないじゃん」
「うん……ありがとう」
紗世はたぶん、ぶつかる前からどこかであきらめようとしていたあたしに気付いてた。
だから、背を押してくれたんだ。
もちろん昨日からのモヤモヤが晴れたわけじゃない。
でも、もう少し頑張ってみたいと、思った。

「振られたら慰めてあげるよ」
「縁起でもないこと言わないでよっ」
「お、オッケーされるかもとは思ってるんじゃん。いい傾向いい傾向」
さっきとはうってかわって、けらけら笑う紗世に、はめられたっと思う。
「見てるだけでも、幸せだし」
「ばかねー。付き合いたいって顔にかいてあるよ。それにお似合いか気にする時点で付き合いたい気持ちはあるんじゃん?」
指摘されたことは図星過ぎてなにもいえなくなった。

そばにいれるだけでいいとか、見てるだけで幸せとか、それもほんとのきもち。
もっと、なんて考えないようにしてるけど。
心はとても正直で。

やっぱりその手に触れたいし。
一緒にもっといたい。

「でも涼村くんも、付き合うならかわいい子がいいよね……」
頑張ると決めた矢先に弱音が漏れる。
ちらつくのはやはり、佳耶さんの姿。
「それは、そうなんじゃない?」
あっさりの肯定にがくっと肩が落ちる。
「でも可愛いの基準は人それぞれだし、りん自身が頑張って可愛くなればいいんじゃない?」
「わたしが?」
「恋する女の子はみんな少しでも好きな男の子にみてほしくて頑張ってるよ。りんも頑張ればいいじゃん」
「そんな簡単にいわないでよー」
「やる前からあきらめてちゃ、勝てないよ?」

……それが誰を指しているのかなんて、すぐわかる。

「かわいく、なれるかな?」
どんな努力をすればいいのかまだわからないけど。
ちらりと紗世にすがるように問いかけてみると、
「それはりんの努力次第でしょ?」
なんて甘えさせてはくれなかった。


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