ソネットフレージュに魅せられて

第28話

学校の屋上で、
カザミドリが右回りしたかと思えば、
左回りしていた。

今日は、風が強く吹いていた。

遠くで、飛行機が雲を作らずに低空飛行していた。

彼女を見ていると心が洗われるようだ。

教室の席に座り、窓際に座る彼女を
いつも見ていた。
登校してすぐワイヤレスイヤホンを
外して机に置いた瞬間、部屋の空気が
変わった。

「雪菜、昨日のドラマ見た?
 最後、あんな感じで終わる
 なんて寂しかった。
 ライバルの幼馴染と結ばれると
 思ったのに!」

高橋緋奈子が登校してすぐの雪菜に
声をかける。
横にいた酒本美花や、伊藤あゆみの
雪菜の周りには、
2人の友達が集まっていた。

「えー、私は、あのままの
 彼氏で良かったと思ったよ。
 主人公はあの人と
 結ばれたいんだって
 わかったもん。」

「とか、言って?
 リアルで、雪菜は
 幼馴染いるじゃん。
 雅俊くん。」

「幼馴染だからって必ずしも
 恋愛対象にはならないもの。
 今、実際付き合ってないし。」

「確かに…。
 そういや、聞いた?
 昨日、フラッシュモブみたいに
 雅俊くん、2年の女子に
 大人数の前で
 告白されてたみたいだよ。
 なんだっけ。
 雅俊くんファンクラブに
 選ばれた人って言ってたよ。」

「うっそぉ。
 それは知らなかった。
 それ、どうなったの?」

 幼馴染でも、
 告白はどうなったか気になる雪菜。

「なんか、返事はOK
 出したらしいけど。」

「へぇ、そうなんだ。
 それは、ようござんした。」

「えー、雪菜それ何語?
 うけるー。」

「それはよかったねって意味だよ。
 知らない?」

「知らないよぉ。」

 いつも、雪菜の周りは
 にぎわっていた。
 それを凛汰郎は、
 遠くから見ていて
 ほほえましかった。
 まるで保護者目線のよう。

「あ、そうだ。」

雪菜はバックを机の脇にかけると、
凛汰郎の前に歩き進めた。

昨日のことはなかったように
話しかける。

「凛汰郎くん、
 おはよう。
 弓道部の引退セレモニーのこと
 しっかり聞いてなかったんだけど、
 いけるの?」

「……行かない。
 塾あるから。」

「……あ、そっか。
 んじゃ、紗矢ちゃんに伝えて
 おくね。」

 あっさり食い下がる雪菜が
 いつもらしくないなと思い、
 凛汰郎は、声を発した。

「あ、あのさ。」

 立ち去ろうとする雪菜に
 手をのばす。

「え、あー、もしかして
 昨日のこと?」

「え?」

「昨日、一緒に帰るとかって
 言ってなかった?
 私の聞き間違いだったかな。」

「…言ってないし。」

 目を合わせることなくいう。

「そうだっけ。
 ごめん、聞き間違いで。
 んじゃ、席、戻るね。」

 チャイムが鳴り、授業が始まろうとしていた。

 凛汰郎は、思いと反対なことをいう。
恥ずかしいやプライドが邪魔して
話すことができなかった。

 誰とも付き合ったことのない
凛汰郎にとってハードルが高かった。

 交際ってなんだろう。

 もう部活は引退してしまったし、
 会うことも授業の教室以外ない。

いつも花がある彼女の斜め後ろから
眺めては、微笑んで、アイドルを
見ているかのように片思いのまま
動くことができない。

雪菜もどうしたらよいか
わかなぬまま、毎日を過ごしていた。


◇◇◇

 夕日が沈み、真っ暗になった夜、
 家族団らんで
 夕食を食べ、お風呂も入り、
 まったり部屋で休憩していた
 雪菜は、椅子によりかかって
 のけぞった。

 隣の部屋では、
 いつものように弟の徹平が
 オンラインゲームを楽しんでいた。
 耳を澄ますとまさかの雅俊の声も
 する。
 聞き耳を立てて、
 ずっと聞いていると、
 ゲームをしながら雅俊が
 ものすごい話をして戦っている。

「ちょ、そこのハンドルネーム
 『よわいですよ』さん、
 名前と行動が合ってないですよ!」

『うっさいんですけど…。
 及川、さっきから話してる人
 どうにかして。』

『先輩、本名やめてもらえます?
 一応俺にも<ゼウス>っていう
 ハンドルネームあるんですから。
 な、雅俊。』

『なんでギリシャ神話のゼウスなのか
よくわからないんだが…。』

「浩平、先輩ってどういうこと?
 学校のリアル先輩なの?」

 雅俊がゲームをずっとやっていて
 今更ながら確認する。

『あれ、言ってなかったっけ。
 先輩は、弓道部の平澤凛汰郎先輩だよ。
 知らない?』

「げげ、マジで?」

『ちょっと、待て。
 及川、雅俊って、
 斎藤雅俊のことか?』

「呼び捨てっすか?」

「え、何、何?
 もしかして、2人知り合いですか?」

 徹平が雅俊にさらりと聞く。

「知り合いも何も、
 雪菜が入ってた弓道部員だよ。」

「へぇ、マジっすか。」

『悪い、俺抜けるわ。』

 凛汰郎は、不機嫌になり、
 ゲームから回線落ちしようとした。

「ちょっと待ってください。
 《《平澤先輩》》。」

 急に丁寧に声をかける雅俊。

『待たないけど。』

「せめて、この1ゲームの第1位
 取ってからにしましょう。
 途中で抜けるとペナルティで
 ランクも下がってしまいますよ。」

『……わかった。』

 ランクが下がることはしたくなかった
 凛汰郎はゲームを続けた。
 他の2人もため息をついて、
 安心していた。

 雪菜はその声を聴いて、徹平の部屋の
 扉を少しあけて、のぞき見していた。

 はっと気づく雅俊。

「徹平、お前の部屋に座敷童がいるぞ。」

 扉の近くにいる雪菜を指さした。

「うっわ、こわ。
 ちょっとねえちゃん。 
 入ってくるなよ。」

 徹平はバタンと扉を閉めた。

「えー--。なんで見ちゃいけないのよ。」

 扉の向こうの方で雪菜が騒ぐ。

『白狼の声するな。』

「お?気づきましたか。
 平澤先輩もといよわいですよさん。
 なんと、俺は、白狼家の弟の部屋で
 ゲーム中です。
 いいだろう?」

 『な、なに?!
  あいつに弟いたのか。』

「なぁ、まーくん。
 いいだろうってなんの自慢してるん?」

「え、別に。気にすんなって。」

 スマホ越しになぜか殺意を感じる雅俊。
 悪寒がし始めた。

「なんか寒くない?」

「全然。」

 そのゲームでは、
 凛汰郎の脅威の殺意も込みで、
 見事に第1位を獲得した。

雪菜は不満になりながら、徹平の部屋の扉の前で
ずっと話を聞いていた。

 夜は長く感じられた。
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