ソネットフレージュに魅せられて

第45話

「姉ちゃーん。つまらない!」

 隣の部屋で寝転びながら、
 スマホをいじる徹平が叫ぶ。

「何したの?」

 隣の机から、声を発する。

「ゲーム、まーくんとしたいのに、
 最近、全然混ざってくれない。
 用事あるっていうし、うちにもこないし。
 ほら、家にも帰ってないみたいだし。」

 カラカラと窓を開けて、隣の家の
 部屋の様子を伺うと部屋の明かりが
 真っ暗だった。
 人の気配がない。

「バイトにでも行ってるんじゃないの?」

「…何かバイトはしてるらしいけど、
 部活は辞めたとか言ってたんだよね。
 ねぇ、部活辞めたら
 暇になるんじゃないの?
 そしたら、ゲームできるよね。
 何でだろう。」

「へぇ、部活辞めたんだ。
 あんなに好きなサッカーなのに、
 レギュラーで選ばれてたん
 じゃなかったのかな。
 と言うか、私に聞かないで!
 宿題が終わらない!」

 部屋を出て、雪菜の目の前にやってきた
 徹平がじーと見つめる。

「だって、姉ちゃん、まーくんと
 仲良いじゃん。」

「仲良いって幼馴染ってだけだよ。
 それ以上でもそれ以下でもない。
 そもそも、幼馴染って小学生くらいの話
 でしょう。
 私たちの関係は、どうとも
 言わないかもしれない。」

「何、無理してんの?
 良いじゃん、境界線作らなくても。
 友達であることは変わりないんだしさ。
 あーーー、ゲームしたいのに。」

 徹平はブツブツ文句を言いながら、
 自分の部屋に戻っていく。
 
 何気なく、雪菜も雅俊のことが
 気になり始めて、隣の家の部屋の明かりを
 確認したら、真っ暗だった。
 いつもなら、カーテンを閉めずに
 煌々と明かりを灯してる。
 
 こちらの様子なんて
 気にならないみたいだ。

 この気持ちは嫉妬なんだろうか。

 はーとため息をついた瞬間、
 明かりがついた。

 帰ってきた雅俊と窓越しに目が合う。

 恥ずかしくなった雪菜は、カーテンを
 急いで閉めた。

「雪菜~、今見てただろ?
 こっち見るなよぉ。」

 一言でも声がかかる。
 ただそれだけで何だかホッとしていた。
 いつも毛嫌いしていたはずなのに。
 
「おーい、聞いてんのか?」

「聞いてなーい。」

「聞いてんじゃねーか。
 ほら、雪菜!」

 窓からぽーいと雪菜の家に投げた。

 ちょうどよくベランダに何かが落ちた。

 何が落ちたか気になってのぞいてみると、
 ミルク味のキャンディ1つだった。

「今日もバイトでさ、その飴、
 新作だったみたいで買ってみた。
 ホイップミルク味の飴だってよ。」

 ガサガサと机の上にバックから
 教科書とノートを取り出す雅俊。

「まったく、宿題すんの嫌だなー。
 雪菜、代わりにやって~。」

「……無理。」

「ちぇ、釣れないのー。
 いいよいいよ、天才雅俊様が一瞬で
 終わらせるからな!
 見てろよ~?」

 英語辞典とノートを広げて、テキパキと
 英語と日本語訳を書いていく。

 そう言う姿を見ると雅俊も
 普通の高校生なんだと感じた雪菜。


「あ、言ってなかったんだけどさ、
 雪菜~、俺さ、
 緋奈子先輩と付き合うことに
 なったんだわ。
 それ言っとこうと思って…
 良いよね、別に。」

 宿題をしながら、話す雅俊。

「え?……ああ、そうなんだ。
 別に私に許可得なくても良くない?
 付き合うって自由でしょ?
 私はあんたの嫁でもなければ
 彼女でもないわよ。
 好きにしたらいいじゃないの?!」

 なぜかイライラしている。
 自分がおかしい。
 言動と行動が伴ってない。
 まるで言ってほしくないかのようだ。
 バレる、バレないか。
 雪菜は興奮したまま、話を終えて
 そっぽを向いた。

 数分後、雪菜の部屋のベランダに
 飛び移って雅俊がやってきた。

 コンコンと窓をノックする。

 はーと息を吐いて、窓にハートマークを
 描き始めた。
 
 この人は一体何をしたいんだろう。

 窓の鍵を開けて、雪菜は
 急いで、雅俊の描いたハートを
 手で消した。


「思ってもないくせに、描かないで!!」


「何、怒ってるんだよ?」


「怒ってない!」


「怒ってるって。」


迂闊だった。
窓の鍵を開けたため、雅俊が
部屋の中に入ってきた。


「なあ、落ち着けって。」


 怒りにまかせて、呼吸が荒い雪菜の腕を
 掴む雅俊。


「雪菜、そんなに俺が
 緋奈子先輩と付き合うのが
 気に食わないの?
 雪菜は平澤先輩と
 付き合ってるんじゃないの?」


「……そ、そうだよ。
 凛汰郎くんと付き合ってるよ? 
 雅俊は、緋奈子と付き合うんでしょ?
 それでいいじゃない。
 何が問題あるの?」


「雪菜、お前、泣いてるぞ?」


 雅俊は、冷静になって雪菜を見る。
 目から涙が滴り落ち、
 苛立ちも全面に出していた。

「め、目にゴミが入っただけよ! 
 放っておいて……。」

 顔を見せないよう、後ろを振り返り、
 涙を止めようとしたが止まらない。

「雪菜、自分に正直になれよ。
 うっっ…。」

突然、雅俊の背中に
妖怪子泣き爺のような
重さが乗っかった。

「まーくん!!
 ここで何してんの?
 ゲームは?!」

背中に徹平が乗っている

「あ、い?! 徹平か?
 ゲーム?
 あー、最近してないよね。
 したかったのね。
 でも、待って。
 姉ちゃん、泣いてるからさ。
 お、落ち着いてからで……。」

 するとさっきまで泣いてたかと思った
 雪菜は机に戻り、冷静さを戻して、
 宿題に取り掛かっていた。

「…私は平気。 
 ゲームしたら?」

突然、ピリッとした空気になる。

「ゲーム!!」

「あー、はいはい。
 わかったわかった。
 徹平の部屋行って良い?」

 雅俊は、徹平に気持ちを入れ替えて、
 雪菜から離れていった。
 雅俊は徹平をおんぶしたまま、
 徹平の部屋にいく。

 弟の前では強気になる雪菜だ。
 本当の自分を出せなかった。

 おもむろにスマホを開いて、
 ラインのメッセージを
 凛汰郎に送ってみる。

『私のこと好き?』

なんて、ストレートすぎるかなと
思いながら
照れた顔をさせた。
すぐに返事が返ってくる。

『うん』

ただそれだけのスタンプも何もない。

凛汰郎は恥ずかしくて
文字に表せなかった。

でもなんか
求めていたのはそんなんじゃない。

自分はどうしたいんだろう。


どこか埋められない心を
置き去りにして、
夜は過ぎていった。





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