ソネットフレージュに魅せられて

第48話

夢から覚める頃、夕日が部屋の中に
差し込んでいた。

からすが鳴くのが聞こえてくる。
自転車のチェーンがカラカラと
回る音も聞こえる。

トラックの重さで地面が揺れる。

うなされて寝返りを打った。

はっと息をのむと、目の前に
サングラスをつけて、頬に湿布をつけた
雅俊があぐらをかいてスマホのゲームをしている。

家のカギはかけてたはずなのに…。

とっさに枕を顔めがけてなげた。

「侵入者!?」

「ぐわぁ!」

どたんと体が倒れた。
枕をよけて体を起こす雅俊。

「ひどいな、見舞いに来た人にする
 態度かよ。」

「いやいや、頼んでないし。
 あんた、どこから入ってきたのよ。」

「えっと、徹平の部屋の窓から。
 鍵開いてたから。
 だって、入っていいって徹平に
 言われているから。」

「私は許可してないし!!
 徹平もまだ帰ってきてないじゃん。」

 人の気配もしない。
 慌てて玄関を靴を見ても徹平の靴もない。

「あ、そうだった?」

 そういいつつも本当はうれしかった雪菜。

「まったく、もう。」

 ぺたんと座る雪菜は、ぎゅるる~とお腹を鳴らす。
 目を下に向けると、雅俊の足に包帯が見えた。

「腹減ってんの?
 肉まん、買ってたよ。
 カレーチーズまんと
 ピザまん。
 俺好きなんだよね~。」

 テーブルの上に置いていた
 コンビニのビニール袋から
 肉まんを出した。

「…雅俊、その足は?」

「ん? 別に。なんでもないけど。」

「けがしたの?」

「肉まんの話はスルーかよ。」

「いいから!!」

 雪菜は雅俊の制服のズボンをたくし上げて確認する。

「広範囲じゃん。
 え、もしかして、サッカーやめたのって
 このせい?」

「……。」

 無言で肉まんの紙をめくって食べ始める。

「それに、その頬ってなに。
 湿布してるし。」

 雪菜は嫌な予感した。
 雅俊がふざけてつけてるんだろうと
 思っていたサングラスを外してみた。
 左目の上の部分に青く腫れていた。

「な、何があったの?
 これって誰かに殴られた跡?」

「…違うよ。階段から落ちたの。」

「嘘だ。手の跡ついてるじゃん。」

 雅俊は後ろを振り返る。

「なんで、嘘つくの?」

「……言いたくない。」

「…なんで。」

「それよりさ、元気そうじゃん。
 俺、雪菜が休んだって聞いて、
 すっげー心配したからさ。
 全然、元気なら、いいな。
 肉まん、食べろよ。
 置いておくから。」

 立ち去ろうとする雅俊に
 雪菜は進路を阻む。

「あのさ、聞きたいんだけど、
 本当に緋奈子と付き合ってるんだよね?」

「……え、あー、うん。」

 目がキョロキョロと泳ぐ。
 予想と違う態度に雪菜は困惑する。

「え、違うの?」

「……ば、ばれた?」

「え???」

「だよなぁ。ばれるよな。
 このけがとか見たら、怪しいとか思うだろ?
 アピールありすぎるよなぁ…。
 帰りに肩貸してもらうために
 緋奈子先輩に恋人のふりしてもらってさ。
 まぁ、さすがにそれもこれも
 全部、平澤先輩にもばれちゃったわけで…。
 このありさまよ。」

 雅俊は、自分の頬をペチペチとたたく。

「え?どういうこと?
 何、凛汰郎くんに殴られたってこと?」

「俺が雪菜を騙そうとした
 バチが当たったってことなわけで。
 でも、やりすぎたかなとも自分でも
 思ってるけどさ。
 欲にも負けたわけだし…。」

「さっきから言ってる意味がわからない。
 雅俊、一体何をしたの?」

「この際だから何回も言ってるのを
 聞き流されてきたからいうんだけどさ。」

 雅俊は、まっすぐに雪菜を見る。

「俺、雪菜が好きなんだよ。
 昔からずっと…。
 今までいろんな彼女いたけど、
 本当は、心から好きになれなったわけ。
 建前上、付き合わざる得ないというか
 告白されることが多いから、
 断れきれなくて、付き合うんだけど、
 最終的には、ふられるか無理って俺がなるの。
 それはなぜかって…。」

 さらに近づく。

「いつも雪菜しか見てないから。
 雪菜以上にいいなって思った
 女子に会えてないの。」

「……そ、それは、きっと幼馴染だから
 姉弟みたいな関係だからでしょう。」
 
 雪菜は後ろを振り向く。
 いざ、真剣に告白されると気が引けてきた。
 しかも、彼女をたくさん作っておいて
 後付けのように言われてもと思った。

「俺は、今、真剣に言ったんだよ。
 受け止められないのならば、
 もう雪菜を追いかけるのをやめるよ。
 平澤先輩と付き合うって言うから、 
 俺が緋奈子先輩と付き合うとか言わないと
 こっち振り向いてくれないと思ったから。
 なぁ、雪菜にとって俺は何なの?
 弟?ただの後輩?幼馴染で終わり?」

 胸が苦しくなる。
 追い詰められてる。
 どっちか選んだら、みんな離れる。
 贅沢に生きてはどうしてだめなのだろう。

「……大事だよ。
 言いたいこと言えるし、安心できる。
 でも、たぶん、私は、緋奈子に対して
 嫉妬してた訳で、友達として好きなんだと
 思う。でも、何かさっき嘘だって知って、
 安心した。」

「……俺って、男としての魅力ないの?」

「魅力はあるんじゃないの?
 ファンクラブもあるわけだし。
 でも、ごめん、私には、
 浮気する雅俊とはちょっと無理。」

 顎が外れそうだった。
 がくっとうなだれた。

「彼女何人も作る時点でちょっと…。
 緋奈子にまで手をつけるかと思った。」

「いや、ごめん。
 もう手をつけた。」

「あー--、ほら。
 だから嫌だ。
 私がいいとかいうけど、
 それも信じられないし。」

後ろから雪菜にバックハグをする雅俊。

「その時、好きだと思ったやつを
 こうやってして何が悪いんだよ。
 浮気じゃないし。思いのまま生きてるだけだし。」

「やだって言ってるじゃん。」

「嘘だ。顔赤くしてるじゃん。」
 
 体と心が一致しないときってあるんだ。
 バックハグからの横から口づけされた。
 嫌じゃない。
 頬をたたくことはしなかった。

 前はバックを使ってたたいたのに、
 嫌がられない様子を察して、
 ぎゅうっと抱きしめた。

 テーブルに置いていた雪菜のスマホが鳴り続ける。

 スマホのバイブレーションが気づかないほど
 夢中になる2人がいた。

 夕日が沈みかける。

 凛汰郎は、塾の前の出入り口でスマホを耳に当てていた。
 スマホを持つ左手には包帯が巻かれていた。
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