月下美人
そこに立っていたのは、母だった。

「あっ!優芽おかえり!ちょうど今ね、お父さんと一緒に夕飯の買い物行こうとしてたの!優芽も行く?」

「え、いや…」

母の格好はかなり薄着で、下着も透けている。

ずっと家に居たから、外が今どれだけ寒いのか分からないからだと思うけど…。

玄関に入り、ついて行こうか迷っていると、リビングから父が出てきた。

母が私が小学校6年生の時に家に連れてきた人で、間もなく結婚した…。

私からも、父から見ても、お互いに血の繋がりはない。

なので、継父。
ということになる。

元々気難しい人で、あまり笑わない人。

特に母の連れ子というところでは、自分の子供ではないから可愛がれなかったのだろう。

何年か経っているが、どうにも私は、この人が苦手だ。

「おう、おかえり…」

ボソッと呟くように、それだけ。

「……ただいま」

なんだか私だけ、この家の人間じゃないみたいだ。

そんな気持ちが、ずっとある。

「あ、あなた!優芽も買い物一緒に行っていいわよね?」

「あぁ…」

その返事は肯定でも否定でもなく。

「好きにしろ」と言われてるようだった。

何とも、居心地の悪さが拭えない。

「私…急いでやらなきゃいけない課題があるから、買い物は2人で行ってきていいよ」

「え?…うん、わかった」

母は少し寂しそうな顔をしていたのを、私は敢えて見て見ぬふりをした。

そんな顔をするくらいなら、本当は私の気持ちにだって気づいてるはずでしょ。

私は静かに2階に通じる階段を上る。

自室へ入って扉を閉めた途端、緊張の糸が解れて、そのままベッドへダイブした。

「はあー…」

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