恋を忘れたアラフォー令嬢~遅咲き画家とのひとときの恋
【初めて知る愛ある一夜】
次の週末は快晴で、秋を感じる季節は、風情漂う。
スケッチブックを持たずに、久々にいつもの土手に行った。
やっぱり井上さんは居ない。
アトリエのある住所は知っているけど、なかなか1歩踏み出せなかった。
いつもの私ならきっと直ぐに行っている。
でも、恋心がそれを邪魔していた。
「今日は、絵を描かないんですか?」
低音で、体の芯に優しく響く声に振り向くと、そこに井上さんが微笑んで立っていた。
「井上さん・・・こ、こんにちは」
「田中さん、先日は、ありがとうございました」
「いえ、こちらこそ。素敵な絵を見れて、感動しました」
「私、今から家に戻るんですが、もし、この後時間があるなら、アトリエに来ませんか?」
「いいんでしょうか。お邪魔では」
「大丈夫ですよ。用事を済ませて帰る途中でしたから。車で来てますので、良かったら」
「では・・・お願いします」
2人は車に乗り、アトリエに向かった。
「そうだ。実は先日の個展の絵、南都商事の方に目が留まって、パリ支社の近くにあるお店に置いてみないかと言われましてね。こんなチャンスは無いと、直ぐにお願いしたんですよ」
「そ、そうでしたか。素敵な絵は、誰でも分かるんでしょうね」
「私、もうすぐ50歳になるんですよ。この年で絵が認められて、諦めずに描いてきて良かったです」
「パリでも、素敵な人の目に留まるといいですね」
「えぇ」
本当の事は言えないけど、井上さんの喜ぶ姿にホッとした。
街外れの、静かな住宅外に佇む1件家。
「両親はもう居なくて、私だけなんですよ」
2階建ての洋風の建物で、中に入ると、部屋には絵が描かれたキャンバスが、沢山あった。
「若い頃から、描いているんですか?」
「そうなんですよ。本当は、絵だけで食べていけたらいいんですが、そうもいかなくて。美術の教師をしながら、その合間に絵を描いてます」
「そうでしたか。あんな素敵な絵ですから、きっと誰かの目に留まりますよ」
「そうだといいんですが・・・」
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