あしらってるつもりの浅黄くん SSまとめ
 さすがに、あれっと思って浅黄くんの顔をちらっと見上げると――……こわばった顔で一点を見つめていた。

 あ、やばい。


「あ、浅黄くん……」


 軽く肩をゆする。


「……大丈夫?」


 一瞬目が合うと、す、と浅黄くんの視線が下に泳いだ。わたしは反射的に首に手を持っていってしまった。そこを見られるのがわかったから。
 そのせいでわたしが浅黄くんの考えを読んだことも、浅黄くんがそれに気づいたこともはっきりしてしまった。
 ふたりとも何も言わないけど同じこと(・・・・)が頭をよぎっている。


「……ごめんね」


 あやまるのが正解とは言えないけど、つい口にしてしまう。ぜんぶ悪手。

 浅黄くんはうなだれて首をふった。別にいい、ってことだと思う。

 気まずさをごまかすように浅黄くんはカップの中をスプーンでくるくる回して、残りの氷をのどに流しこんだ。そろそろ歩きだす雰囲気を感じて、わたしも同じように平らげる。


「……帰ろ」


 つぶやくように言った浅黄くんが、私の手からカップをとりあげてごみ箱のほうに向かった。その背中を見ながら、わたしは冷えた指をもう一度首にやる。少し汗ばんだ肌をなでるとそこ(・・)の境い目が指にひっかかる。

 くるっときびすを返した浅黄くんにバレないように、わたしは手をおろした。


「ごみ、ありがと」


 空気をごまかそうと明るく言って、浅黄くんの手に飛びつく。


「はいはい」


 いつもの調子でイヤそうに手をはらわれた。でも、わたしには浅黄くんがムリをしてるのがわかった。


「手ぇつめた〜い、あっためて〜」

「やだ。つーか俺も食ったんだから冷たいの同じだろ」

「じゃーあっためてあげる」

「いらない! 言うと思ったよ……」


お互い気づかないフリでいつも通りの雰囲気をつくりあげながら、夜道を家にむかって歩いていく。

 ――……気をつけないと。浅黄くんはまだあのこと(・・・・)を気にしている。


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