聖母のマリ子
身分の低いグレゴリオの母が無事出産に至ったのは、ひとえに王の加護が厚かったからに他ならない。
本来ならとるに足らない存在であるはずのその女と子供は、彼らを守る加護が厚ければ厚い程命の危険にさらされた。
信じられる者は自身と血を分けた子供だけというその環境が徐々に彼女を狂わせ、そんな母に育てられたグレゴリオもまた、静かに狂っていたのかもしれない。
命を狙われ続けて狂った母、その寵愛が毒であると知りながら母に執着する王、嫉妬と欲にまみれ小石を投げる程度の感覚で暗殺を企てる王妃達。王の命令で護衛につく者達ですら、グレゴリオと母の身分の低さを嫌って蔑んだ態度を隠そうともしない。侍女やメイドもしかりである。
グレゴリオの母はその後王子2人と姫1人を産み、その全てが赤子の内に殺された。出産に至らず流産した回数はその比ではない。
「もう孕みたくない」と泣いて嫌がる母が閨に引き摺り込まれる姿を、幼いグレゴリオはどんな気持ちで見送ったのか‥‥
自分が今生きているのはたまたま運が良かっただけに過ぎず、頼れる者は自身のみであると理解してからは、ただ生き延びることだけを考えて過ごすようになった。
学をつけ、体を鍛え、それを悟られることは許されない。『何も信じてはいけない』‥‥これが唯一母から学んだことだった。
母が死んだのはグレゴリオが10歳の時。5人目の出産で姫を産んだ直後、与えられた毒入りの水を口に含んだことで呆気なく命をおとしたのだ。
例え狂っていようともグレゴリオを残して死ぬことは決して望まず、母は必死で生きようとしていたが、産後で満身創痍の中、隙をつかれて毒を流し込まれたことによる死であった。
最愛の寵妃を失った王の怒りは常軌を逸するものであり、第2王妃が犯人であると判明すると、王自らの手で制裁を加えた。
王妃の血族とそれに連なる者は家臣や家来も含めて全て捕らえられ、王妃の目の前でなぶり殺された。親兄弟と王の血を引く王子は王自らの手によって処刑。王妃は拷問の上見せしめのため広場に放置、衰弱死する寸前で後宮へと運び込まれて他の王妃達が見守る中で王がその首をはねた。その首はその後10日に渡ってさらされ続けたという。
この惨劇は王妃達にとって他人事にはなり得なかった。彼女達は10年以上もの間、王の寵妃に刺客を送り続けていたのだ。第2王妃はたまたま暗殺に成功しただけであり、あの場で首をさらしていたのは自分だったのかもしれない‥‥誰もがそれを想像し、あまりの恐怖に言葉をなくした。
本来ならとるに足らない存在であるはずのその女と子供は、彼らを守る加護が厚ければ厚い程命の危険にさらされた。
信じられる者は自身と血を分けた子供だけというその環境が徐々に彼女を狂わせ、そんな母に育てられたグレゴリオもまた、静かに狂っていたのかもしれない。
命を狙われ続けて狂った母、その寵愛が毒であると知りながら母に執着する王、嫉妬と欲にまみれ小石を投げる程度の感覚で暗殺を企てる王妃達。王の命令で護衛につく者達ですら、グレゴリオと母の身分の低さを嫌って蔑んだ態度を隠そうともしない。侍女やメイドもしかりである。
グレゴリオの母はその後王子2人と姫1人を産み、その全てが赤子の内に殺された。出産に至らず流産した回数はその比ではない。
「もう孕みたくない」と泣いて嫌がる母が閨に引き摺り込まれる姿を、幼いグレゴリオはどんな気持ちで見送ったのか‥‥
自分が今生きているのはたまたま運が良かっただけに過ぎず、頼れる者は自身のみであると理解してからは、ただ生き延びることだけを考えて過ごすようになった。
学をつけ、体を鍛え、それを悟られることは許されない。『何も信じてはいけない』‥‥これが唯一母から学んだことだった。
母が死んだのはグレゴリオが10歳の時。5人目の出産で姫を産んだ直後、与えられた毒入りの水を口に含んだことで呆気なく命をおとしたのだ。
例え狂っていようともグレゴリオを残して死ぬことは決して望まず、母は必死で生きようとしていたが、産後で満身創痍の中、隙をつかれて毒を流し込まれたことによる死であった。
最愛の寵妃を失った王の怒りは常軌を逸するものであり、第2王妃が犯人であると判明すると、王自らの手で制裁を加えた。
王妃の血族とそれに連なる者は家臣や家来も含めて全て捕らえられ、王妃の目の前でなぶり殺された。親兄弟と王の血を引く王子は王自らの手によって処刑。王妃は拷問の上見せしめのため広場に放置、衰弱死する寸前で後宮へと運び込まれて他の王妃達が見守る中で王がその首をはねた。その首はその後10日に渡ってさらされ続けたという。
この惨劇は王妃達にとって他人事にはなり得なかった。彼女達は10年以上もの間、王の寵妃に刺客を送り続けていたのだ。第2王妃はたまたま暗殺に成功しただけであり、あの場で首をさらしていたのは自分だったのかもしれない‥‥誰もがそれを想像し、あまりの恐怖に言葉をなくした。