偽装溺愛 ~社長秘書の誤算~
5.大人の情事


 病人相手にやり過ぎた。

 おむつを穿かせてもらった力登が、母親に尻の動物の絵を見せた時、りとは真っ赤な顔でぐったりしていた。

 思いつめたように泣いていたから、気を逸らしたかっただけが、今度もやり過ぎた。



 どうも、調子が狂う……。



 泣きながら力登を抱きしめる彼女を見た時、無性に抱きしめたくなった。

 実際に、そうしてしまった。



 ギャップが……あり過ぎるからか。



 そうだ。そうに違いない。

 初めて会った時の彼女の印象と違い過ぎて気になるだけだ。



 それだけで、何度もキスするかよ!



 自分の思考に自分で突っ込みを入れる。

 りとと力登と一緒にいると、調子が狂う。

 無条件で俺に懐く息子に、距離を取ろうとしながらも無防備な姿を見せる母親。

 守ってやりたくなる。

 今だって、そうだ。

 熱に浮かされる彼女に、勝手に手が伸びる。

 頬に触れると、さっきよりも熱い。

 解熱剤を飲んでからまだ三時間ほどだから、まだ飲めない。

 洗面所に行ってタオルを冷たい水で濡らし、顔や首を拭く。

 少しだけ表情を歪めただけで、すぐに穏やかな寝顔になった。

 パジャマのボタンをひとつ開け、タオルを当てる。

 本当は、パジャマを替えた方がいいのだろうが、さすがに俺がそうするわけにはいかない。

 冷蔵庫から冷却シートを持って来て、おでことうなじに貼った。

 表情を歪めながら、今度は目を覚ました。

「興奮しすぎたか?」

 おでこに手を当てて言うと、彼女は力なく笑った。

「誰のせい……」

 目を細め、苦しそうにはぁと息を吐く。

「食欲は?」

「喉が……」

 ミネラルウォーターのキャップを開け、ストローを挿す。

 彼女の身体を抱き起こし背後に腰かけると、大人しく俺にもたれかかってきた。

 抗う元気もないのだろう。

「力登のことは心配いらないから、ゆっくり休め」

「すみませ――」

「――もう、謝るな」

「……はい」

 ただでさえ華奢な身体なのに、今日はさらに小さく感じる。

「お風呂に入ってないから……」

「ん?」

「あんまり近いと、臭うので……」

「ああ」

 俺は気にしないが、そう言っても彼女は気にするのだろう。

 これ以上、彼女の熱を上げるような真似はできないと、りとをベッドに寝かせた。

 ベッドの端に腰かける。

「いちご、食べるか?」

「いちご?」

「ああ。好きなんだろ?」 

「どうして……」

「力登に教えてもらった」

 りとがふっと笑った。

「力登はいちごってうまく言えないけど」

「ああ。いっこって言ってたな」

「それでわかったの?」

 性格には『たっかいいっこ』だが、そこまで言う必要はないだろう。

「ストロベリーの方が言いにくいだろうから、教えてないよ」

 りとがふふっと笑う。

「子供の世話に慣れてるんですね」

「ああ、まぁな」

「弟さんがいるんでした?」

「ああ。俺がおむつを替えてやったのに、俺より先に結婚したよ」
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