溺愛社長の2度目の恋
ダン!と勢いよく私が置いた空のグラスを一瞥し、マスターは檜垣さんへと視線を送った。

「夏音ちゃん、そろそろやめたほうが……」

「なんれすか、檜垣さんも有史さんと同じで、保護者面れすか?」

じろっと睨んだら、小さく檜垣さんの肩が跳ねた。
彼が頷き、マスターが新しいカクテルを準備し始める。

「なんであの人、私なんか好きじゃないのに、優しくするんれすか?
罪悪感?
そんなの、全然嬉しくないれすよ」

ぐだぐだの私の話を、檜垣さんはウィスキーを舐めながら黙って聞いている。

「檜垣さんが私と仲良くすると、嫌そうな顔するのもわけわかんないれす。
そのくせ、すぐに逃げるし。
言いたいことがあるなら、はっきり言えってゆーの」

つい、人には言えない不満が漏れていく。
そのタイミングで、新しいお酒が目の前に置かれた。

「なんで有史さんなんて、好きになったんらろ」

出てきたお酒を一気に呷った途端、世界が反転した。

「きゅぅぅぅぅぅー」

そのまま、くたくたと身体が倒れていく。

「あぶねっ」

檜垣さんがそれを支えてくれたところで、意識が途絶えた。
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