麗しの旦那様、私の愛は重すぎですか?
二階堂夫婦の職場


「おはようございます、櫻子さん」
「おはよう、弓塚(ゆみつか)さん」

 暁成から遅れること四十分後。
 櫻子は何食わぬ顔で出社し、後輩の弓塚と朝の挨拶を交わした。
 丸の内エリアにあるオフィスビルの二十階が櫻子の職場だ。
 櫻子は暁成と同じ会社、同じ部署で働いている。
 暁成は国内トップシェアを誇る化粧品メーカー、純華堂(じゅんかどう)ホールディングスのマーケティング部の部長。櫻子は主任だ。
 二人はいわゆる職場結婚というやつで、首から下げた社員証には暁成と同じ『二階堂』の文字が燦然と輝いていた。
 旧姓のまま働く社員もいる中、櫻子はあえて旧姓の『九條(くじょう)櫻子』から『二階堂櫻子』に公の名前を変更していた。
 それなりの手間は発生するが、暁成と同じ苗字を名乗れるのならば、どんな手間も惜しまない。

(あ……)

 デスクの上にトートバッグを置き、窓際に視線を向けると見ると、既に出社していた暁成と目が合う。
 暁成は出社してきたばかりの櫻子に、部長のデスクからウインクを飛ばしてみせた。

(暁成さんってば!)

 公私混同はしないと明言している暁成だが、時々こういった茶目っ気をみせて櫻子を翻弄してくる。
 櫻子は自分のデスクに着席し、始業の準備を始めた。
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