奪われた令嬢は、蒼穹の騎士に焦愛される――本当の奥様は、貴女じゃなくてわたしです!?――

第13話 夫を誑かす悪女1

断崖絶壁の崖の上――。



 まるで肉食動物のような勢いで近づいてきた夫人は、わたしの金色の髪をものすごい力で引っ張ってくる。

 彼女のくすんだ金色の長い髪を舞い上げ、さながら夜叉のように見えた。



「い、いたい……わたしにアイゼン様を奪い取るつもりはございません……」



「あの男がお前をどう思っていようと、わたくしを好きでなくてもどうでも良いわ! お前の存在そのものが、わたくしにとって害なのよ! ずっとお前が一人になる機会をうかがっていたの!」



「アイゼン様のお気持ちはどうでもよくて、わたしの存在そのものが、害……?」



 そこまで憎まれるような何かを彼女にした記憶が、アイゼン様が絡むこと以外では想像がつかない。



(なぜそこまで、存在そのものを憎まれているの……?)



「この間、侯爵も何かに気づいた様子だった! お前の正体に気づいたのかもしれない! さあ、わたくしのためにこの崖から落ちて死になさい!」



「わたしの正体……? い、いたっ……!」



 女性の力とは思えない力強さで、崖へと向かってルヴィニ夫人に身体を引きずられる。



「やめてください! ルヴィニ様!」



 このままでは崖から落ちてしまう……



 必死にわたしは抵抗する。





「うるさい女だね! お前を殺せば、何の心配もなく暮らしていけるんだ! お前が死にさえすれば、今度こそわたくしが本当のルヴィニ・メーロになるんだよ!!!!」





(本物の……? 一体どういう……?)





「さあ、さっさと死んでおしまい! メーロ侯爵から何かに勘づいているような手紙も来た……! お前の次にあのジジイも殺してやるよ!!!」



 彼女の発言に戦慄が走る。



「メーロ侯爵は、ルヴィニ夫人の実のお父様でしょう……?」



「あんな爺さん、父親なもんか――!」



(え……?)



 先ほどから、ルヴィニ夫人の発言には驚かされてばかりだ。



 そうしてそのまま、断崖絶壁の崖の先端へと、ずるずると引き連れて行かれた時――。





「待て! ルヴィニ! ルビーを離せ!」





 ルビーの主人であり、ルヴィニの夫であるアイゼンが姿を現した。

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